【メンタル】絵描きばかりの世界だったら?という空想で「自己肯定感」を考えてみた

こんにちは、ちあき です。

今日は、生きている人全員が絵描きで、一人につき1枚の『自分らしさという絵』を完成させるのが決まり、とされる世界だったら?というifで自己肯定感とはどんな感じなのか、表現してみたいと思います。

自分らしさという絵

あるところに、みんなが絵描きの世界がありました。

この世界には、Aさんという人がいました。

実は、Aさんは絵が描けなくて、とても困っていました。

この世界では、一人につき1枚の『自分らしさという絵』を完成させるのが決まり、とされているからです。

来る日も来る日もキャンバスに向かいますが、どうも筆が進みません。

何を描きたいのか、どんな色が好きなのか、そもそも今何を描いていたのか、もはやAさんはわからなくなってしまっていました。

育ててくれた絵描きのお父さんとお母さんは、初めて筆と紙をもらってワクワクしている描き始めた当時のAさんに横から口々に言いました。

「もっとこんな色を使わないとダメよ」

「大きさはこのぐらいはないとダメだよ」

「こういうものは描いちゃダメだからな」

「皆に褒められるような絵を描かなきゃダメよ」

両親の言葉を信じて、言われた通りに一生懸命筆をとり書き始めましたが、ダメダメと言われたことが多すぎて、もうそればかりが頭をぐるぐる回ります。

次第に描くのがもう嫌になってしまって、ふと顔を上げると、同い年くらいの子たちはもう線を描き終えて色を塗り始めているではありませんか!

「貴方の絵の色キレイね」

「君のこの構図もかっこいいな」

みんな各々の絵を見せ合いながら楽しそうに色を塗っています。

Aさんは恥ずかしくなりました。

視線を落とすと、手元にあるのは、まだ線も満足に描けていない自分のみぼらしい絵。

Bさんが

「貴方の絵はどんな絵なの?」と突然Aさんの絵を覗き込んできました。

A「えっ…私は…」

Aさんは絵を隠して固まってしまいました。

B「なんだ、つまんないの」

とBさんはAさんには興味を失い、他の子のところに行ってしまいました。

Aさんは寂しくてたまらなくなりました。

みんなに見せられるような、キレイな絵を描かなきゃいけない。

そうじゃないと、他の子と見せあいこができない。でなくてはひとりぼっちだ。

見せあってワイワイ楽しそうにしている他の子がうらやましい。

最初は、うらやましいし寂しいから、見せられない自分の絵を後ろ手に隠しながら、なんとかして他の子の輪に入ろうとしました。

A「わ~すご~い!」

A「よくこんな風にかけたね!!」

どういいのか、何がきれいなのかもよくわからないけど、こんな風に声をかければ、無視はされないことに気づいて、心にもないことを口にしては色とりどりの他の子の絵に圧倒されて、作り笑いを浮かべるほっぺがどんどん引き攣っていくのが自分でも分かりました。

このままじゃなんだか寂しいままだ。

早く私も絵を完成させなくちゃ、みんなみたいにきれいに仕上げなくちゃ。

私も見せ合いこしたい。私の絵をみんなに褒めてもらいたい。

でもわからないのです。

私は何が描きたいの?

何色を塗ったらいいの?

みんななんでそんなに上手に描けるの?

誰かに聞きたい。教えてほしい。誰か助けて。

でも、描けていないままの絵を見せるのが怖いから、次第に話しかけること自体も怖くてできなくなってきました。

また、Bさんのときみたいに「なんだ、つまんないの」って言われたら悲しいからです。

助けてもらおうか…?

いやいや、他の子に自分の絵を見せて「どうやったら、こんなきれいな絵が描けるの…?」と聞いて、「そんなの知らないわよ」ってBさんみたいに冷たく言われて本当に独りぼっちになるのが、たまらなく怖い。無理だ。

Aさんは誰もいない小高い丘で、誰にもバレずにこっそり絵を完成させようと思い立ちました。

どんなふうに筆を動かしているか、どんなふうに構図を決めているか、「どうやったの?教えて?」って直接聞きにいくのが恐ろしいなら上から見ればいい。そうすればみんなの絵を盗み見て、ノウハウを盗んで絵を完成させることができる!とAさんと思ったのです。

小高い丘に着いて、Aさんは意気揚々と眼下に視線を移しました。

人が小さくなるくらい離れた丘からは、とてもではないけれど手元の絵など見えませんでした。

おまけに、丘の上は風が吹いて寒くてたまらない場所だということに気づきました。

Aさんは震えながら、涙を浮かべて強がり、大きな声で独り言を言い出しました。

「あんな絵、大したことないじゃない、そのくらい私だって描けるわよ」

「みんな小さい絵ばかりね、私の額は誰よりも大きいのよ」

「その色は使っちゃダメってママが言ってたのに使っちゃって!汚い色ね!」

虚しくこだまするAさんの叫び声。

誰の耳にも届きません。

そうこうしているうちに、Aさんはもう絵を描くのが、嫌で嫌でたまらなくなってしまいました。

でも、まだ真っ白で少し線が描いてあるだけだけど、お父さんとお母さんにもらった、たった一枚の紙を破り捨てるのは、手が震えて涙が出て、できませんでした。

もう苦しくて悲しくて、Aさんはどうしたらいいかわからなくなってしまったので、膝を抱えて下を向いていました。

肩をトントンと叩かれました。

顔を上げてみると、きれいな絵を持ったCさんが笑顔で話しかけてきました。

C「隣、いいかな?」

AさんはCさんのきれいな絵を見て「ちょっと嫌だな」と思いましたが、断るのも面倒なので、こくりと頷きました。

C「ありがとう!」

そういってCさんはAさんの隣に座りました。

隣に座ったCさんは丘からの景色を見て何も言いません。

もう、どのくらい経ったでしょうか。Aさんは堪りかねてCさんに言いました。

A「何しに来たのよ…あなたも私の絵をバカにしに来たんでしょう?」

C「なんでそう思うの?」

A「だって今まであそこでキャッキャしてる子たちは私の絵をバカにしてるもの」

C「そうなんだ、そういわれたことがあるのかい?」

A「…聞いたことはないけど…そう思ってるに決まってるわ。絶対そうよ。」

C「そうかなー。」

A「あなただって大したことない絵をぶら下げて、自慢しに来たんでしょ?」

C「ああ、僕の絵?大したことないかな?やっぱり(笑)」

A「ええ!しょぼくて見てられないわよ!そんな色使っちゃダメなのに!」

C「そうだったっけ?色はどれでも好きな色でいいって聞いたんだけどなー僕は…」

A「教えてくれた人が馬鹿だったのね、本当はそんなお魚も書いちゃダメなのよ」

C「え?そうなの?下の子たちの間ではお魚をいろんな色で描くのが流行ってるみたいだよ」

A「…えっ?そんなの嘘よ」

C「本当だよ。僕も全然うまくかけないから、みんなに教えてもらったんだよ。でもやっぱり大したことないよねー(笑)僕は好きなんだけどね、このお魚とかホラ」

AさんははじめてちゃんとCさんの絵を観ました。それはもう、びっくりするぐらいきれいな絵でした。しかしよく見ると、絵は何回も書き直した跡がありました。特に魚は、紙が少し擦り切れるくらい何回も何回も、描き直したらしく、うっすらにじんだ涙の痕もありました。

C「あっ、そこばっか見るなよー恥ずかしいじゃん!」

とCさんは顔を赤くしましたが、実際に穴が開くぐらい絵に見入っているAさんを嬉しそうに見るだけで、隠そうとはしませんでした。

A「どうやったら、こんなきれいな絵が描けるの…?」

Aさんはずっとずっとずっと胸の奥にしまっていた、聞きたくてたまらなかった質問をCさんに言うことができました。

絞り出すような小さな声でしたが、Cさんはしっかり聞き取って、こう答えました。

C「僕もどうしても描けなくて、この丘に来たことがあって。」

A「…」

C「独りで泣いていたら声をかけてくれた子がいたんだ。その子が教えてくれたんだ。『上手じゃなくてもいい。塗り間違えてもいい。好きな色で、好きなものを、好きなように描いていいんだよ』って。言われた瞬間、嘘だと思ったけどね。(笑)『こいつは描き終わったからそんな気楽なこといってるんだろう、この嘘つき』って。」

Aさんは、ドキッとしました。

Cさんに対してAさんがそう思っていたから。それを見抜かれている気がしたからです。

C「でもね、嘘じゃなかった。描けなくて泣いている子が集まって一生懸命描き直しているところに連れて行ってくれてね、そこで初めて分かったんだよ。」

A「何が?何が分かったの?」

C「描けなくても恥ずかしくないんだ、ってことがさ。こんなに僕と同じ悩みを抱えている子がいたんだ、独りじゃなかったんだって。」

Aさんは黙って聞いています。

C「そこにいるみんなは絵の具が足りなくて困っていたら『貸してほしいな』っていえば絵の具を貸してくれるし、みんなで助け合って絵を描いてる。独りで書く必要はなかったって、そこで初めて分かったんだ。うらやましくてたまらなかった丘の下で楽しそうに絵を見せあいしている子たちも、ここで助け合って描いて、遊びに出てきていたんだってわかったんだ。」

A「そうだったの…私は今までそんなこと知らなかったわ…」

C「そりゃ、教えてもらってないんだもの、知らなくてもAさんは悪くないさ。」

A「そう…そうよね…。だってママはそんなこと教えてくれなかったんだもの。それなのにパパとママはあれこれ指示してくるの。私はそんな絵なんて描きたくなかったのに!」

C「それじゃあ、自分の絵を好きになれないよね。絵を描くのも進まないよね。」

A「そうなの!そうなの!見てよ私の絵、白くてこんな汚い色でところどころ汚れていて、もうこんな好きじゃないもの、描きたくないって思っていたのよ!」

C「じゃあ、なんでも好きな色で描いていいとしたら、どんなのを描いてみたい?」

A「そんなこと、本当にしてもいいのかしら。」

C「してもいいんだよ。しかも、何回描き直したっていいんだ。だから失敗したっていいんだ。僕の絵なんてほら、ちょっと恥ずかしいけど、ここなんて穴が開いてるし、ここの端っこがちぎれてるのは、意地悪な子に引っ張られて破れちゃったんだ。もうこれは元には戻らない。僕もその子に頭にきて、その子の絵、引っ張って破っちゃったことがある。」

A「それは、とても悲しかったでしょう?」

C「悲しかった。破られた悲しみが分かってるのに、その子の絵を破った僕は、自分の絵が破られたときと同じぐらい胸が痛んだよ。だから『さっきはごめんね』って言った。」

A「バカね、許してもらえるわけないのに…」

C「僕もそう思ったんだ、だから怖かった。だけど、その子も『こっちこそごめん』って言って、僕が持ってなかった色の絵の具を貸してくれたんだ。それがホラ、ここの色さ、綺麗だろう!?だから、ぼくはこの切れ端を見るたびに、ここのきれいな絵の具を貸してくれたその子のことを思い出す。だから、僕はボロボロのこの絵が、大好きなんだよ。」

AさんはここまでCさんの話を聞いて、心底うらやましくなりました。

そんな風に自分の絵を好きでいられたら、どんなに楽しいかしら。

他の子と一緒に絵を描いていいなんて、そんなズルみたいなことしてもいいのかしら。

丘の上からでよく見えなかったけれど、他の子の絵にも、そんな素敵なエピソードがあるのかしら。

Aさんは息をのんで、勇気を振り絞って言いました。

A「私も…その描けなくて泣いている子が集まって一生懸命描き直しているところに連れて行ってくれない…?できたら、でいいんだけど…最初にひどいことを言ってそんなの無理よね…」

Cさんは笑っていたのに、急に真剣な顔になりました。

Aさんは(ああ…やっぱり断られるわよね、わかってたわ…)と涙を浮かべてうつむきました。

しかし、返ってきた言葉は予想外の返事でした。

C「何しに来たのよ、って最初に君は言ったけど、僕は君を誘いに来たんだよ」

A「え…」

C「皆といるところから上を見たら、君がこの丘にいるのが見えたんだ。僕は独りであの丘にいたときのことを思い出した。君も、もしかしたら僕みたいに悩んでるんじゃないか?って思って、君を誘いに来たんだよ。だから、一緒にいこう。みんなで一緒に絵を描こう?」

Aさんは「ありがとう」と何度も言って初めて人前で泣きました。

Aさんは心底ホッとしました。

AさんはCさんみたいな子に出会って、はじめて『ほんとうに生きていてよかったな』と思いました。

CさんとAさんは手をつないで小高い丘からみんなのいるところに下りていきます。

AさんはCさんと一緒に、自分のまだ完成していない白い部分ばかりの絵を握りしめて、前を向いて走っていきます。

その後。

Aさんの絵は前よりも少しは筆が進みましたが、まだいびつでAさんは自分の絵を大好き、とまで思えていません。

でも、好きな色も少しは入れられるようになってきて、だんだん「悪くないかな」とも思えるようになってきました。

描いていて、自分の絵にうんざりしてもう描きたくないと思うときもあります。

でも、Aさんは、Cさんのように、自分の絵を自慢するばかりではなく絵が描けなくて困っている小高い丘にいたころの自分に似た子がいたら、「隣、いいかしら?」と言って隣に座ろうと思っています。そして、その子の話を聞き、これから描きたいお互いの絵の話をしたいと思っています。

そう、Aさんは、私そのものです。

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