どことは言わないが、とある大手製薬会社は勘違いをしている。
正直、もうダメだな、と思う。
製薬会社が患う病
企業名という看板(ブランド)が、まだ通用すると信じている。
おそらく信じたいのだと思う。
自分たちはすごいんだ、有名企業なんだ、そのブランドでまだ売れるんだ、と。
残念ながらそれは悲しい妄想だ。
今まで主流だった生活習慣病領域や消化器疾患領域で築き上げてきたブランドイメージが、他の疾患領域で通用するかというと、そうではない。
というか、そんなわけがない。
しかも、そのかつては栄華を極めていた(らしいがその当時も二番煎じばかりではなはだ疑問の)時代は、ほぼ金でつくりあげたものだ。
接待OK、派手な講演会OK、ゴルフや懇親会などのイベント参加OK、学会共催や医師会共催なんでも肩代わりOK、東京や大阪や福岡でバンバン研究講演会を開いて飛行機代とホテル代を負担して先生たちに旅行がてら話を聞いてもらって、予算を使いまくれた。
だから、それなりに先生たちも製薬会社と付き合うことに価値(メリット)を見出していた。
MRは「飲み友達」「遊び相手」というポジションで「こいつのためだったら話を聞くか」と思わせるような愛されキャラが売れて、そういう寝技的な営業手法がもてはやされた。すなわち、とことん付き合うこと、できるだけ会うこと、とにかく頑張りを見せること。実に体育会系というか、努力・根性・やる気という私が大嫌いな成分で構成されたエリート意識である。
だから、昔は与えられた予算を使い切らないと仕事してないとまで言われた。期末はみな何とか残予算を0にしたいから「飲みに行きませんか?」と先生を誘いまくった。結果、9月と3月は連日飲み会で二日酔いになりながらヘロヘロで仕事をしていた社員がたくさんいたらしい。完全に飲酒運転じゃん。
そんな時代に一番に評価してもらえたからといって、今、この環境で同じように評価されるわけがない。
なぜなら、金も使えない、飲み友達にもなれない、自分たちの団体に出資すらできない、そんな存在は利用価値(メリット)がないから。
むしろ今までそんな泥臭い部分でしかメリットを提供できていなかったことが問題。
社員たちはみなその問題を薄々分かっていながら、腫れ物に触るように口にしない。
昔の先輩を悪く言って睨まれたくないので、忖度している。過去の人々を否定することは、上司やその上の世代を否定すること。そんなことをする社員は出世できなくなる。
現役社員は、本質的な問題には目を逸らしつつ「自分たちはブランドがある」という幻想を捨てられない旧世代にゴマを擦ってご機嫌取りしている。
現実問題として、今この会社が参入している新しい疾患領域は発足当時ひどかった。MRは素人に毛が生えた程度で、私も含め本当に役に立たなかった。周辺疾患の知識がまるでなく、現場感覚も分かっていない人間の提案を、医師が聞くはずがない。
賢いMRは、その現実を謙虚に受け容れていたので「わからないのでどうか教えてください」のスタンスで最初は製品の紹介などせず、先生方の話をきちんと傾聴した。だから生の知識を得て、提案すべきポイントを踏まえることができたので、売上の立ち上がりは遅かったかもしれないが今後を支える人材として成長した。
でも、残念ながら、現在前者の賢いMRは結構他社に流れてしまったと思う。会社に失望するのも無理はない。当初コントラクトMRとして配属されていた賢いMRも派遣切りのようにして切ってしまった。せっかくの財産を自らみすみす手放すという愚を犯した。
アホなMRは、会社の洗脳をそのまま信じて一生懸命追いかけまわして話しかけた。今まで貢献してこなかった素人がえらそうにデータがデータがと毎日駆け寄ってきたら、そりゃあもうウザくてたまらなかっただろう。先生方は本当にお気の毒様である。
賢いMRが去り、アホなMRばかりが蔓延って幅を利かせているのが今だ。
「あんまりにもしつこすぎるから、ちょっとだけ使ってしばらく黙らせとこう」と少し処方したのを「ほら!やっぱり諦めずにしつこく宣伝するのが大事なんだ!」と小躍りして喜んでいる。真性のアホである。しかしそんなエピソードが成功例として社内プレゼンされる。そしてそれを他のアホがマネする。そうやって「やってます感」をうまく社内で形に残せたMRが社内でポイントを獲得して出世する。つまりアホが出世する。
そして会社の上層部はどんどんアホばかりになっていく。実際そうなっている。
だから、過去の栄光、ブランドイメージが今も通用するなどとおめでたい発想を「偉い人が言うんだから本当なんだ」とかあまり自分の頭で考えず継承してしまうのである。
私が社会的意義や医療貢献を主眼に置いて発言したり企画をあげたりすると、マネジメント層は決まってこの言葉を返してくる。
「私たちはNPO法人ではなく、営利企業なので、利益が見込めなくては投資できない」
はいはい。株式会社ですもんね。わかるわかる。
なんていうと思っとるんですか。何を寝ぼけているんだ。
私たちの製品は公的医療保険で7割~9割を負担してもらっている。つまり税金である。
私たちの医薬品が売れて入るお金は、70~90%が税金ということだ。
それって、ほぼ公務員じゃないの?
ボランティアじゃやれないとかいうけど、そもそもが公益事業でしょうよ。
税金から金もらっといて、自分たちにメリットがなければ何もやりませんって、それはおかしくない?
むしろ公に奉ずるものであって、個人の利益に走っていい財務体系をしていないじゃないの。
売上至上主義を正当化したい理由は、結局、株主である投資家様にもっと稼いでこいって言われてるからでしょ。
株式会社は「もっと金をよこせ」という支配的な株主に逆らえない。でもそれが真の理由だとは言えないので「研究開発に投資するためには売り上げを上げて利益を出さないといけない」とか「営利企業として成長し続けないとみんなを雇用し続けられない」とか言って誤魔化す。
残念ながら、このとある大手製薬会社の配当性向は100%を超えている。これは何を意味するかというと、実力以上に株主配当に回しているということ。その株主配当と高額すぎる役員報酬を含めると、研究開発費と同じくらいの額になる年もあるほど高額になる。
結局、会社をおもちゃにして金を稼ぎたい株主と経営者のために、売上を割いているんじゃない。研究開発費に使ってないじゃない。つまり売上達成の目的は研究開発に投資するためじゃないじゃん。
真実をていよく誤魔化して、建前で塗り固めた大義名分を述べているだけ。
木を見て森を見ず
活動方針や行動そのものも、功利主義的というか、自分たちのことしか考えていないようなも戦略がほとんどだ。
「とにかくたくさん処方してもらおう」
考えているのはこれだけだ。
患者さんの為とか社会の為とか、本当は全く考えていない。
建前として毎回口にする「患者さんのため」が、聞くに堪えない。
行動計画の端々から本音がだだ漏れしているのに、いけしゃあしゃあと「患者さんのため」とかいうのを見ているこっちが恥ずかしくなる。
世の中にとって必要なサービスと存在であるからこそ組織は存続できるわけで、自分たちの損得しか考えない組織はいずれ滅びる。
まさに滅びの道を全速力で突っ走っているのが、製薬業界じゃないかなと思う。
MRは、上司を通じて会社から毎日毎日プレッシャーをかけられ「とにかく計画を達成しないといけない」「そうじゃないとバカにされるし降格されるしクビにされる」と精神的に追い込まれる。
追い込まれた人間は、とにかくその苦しみから逃れようとあの手この手で説得しようと焦る。結果をコントロールしようとする。本来はコントロールできないのに。
当然ながら、処方というのは、医師が決めることだ。
私たちはその判断をサポートをする存在だ。私たちが医師の治療方針をこちらに都合のいいように誘導して変えさせよう、というのは根本的に越権行為であり、過干渉である。アプローチが間違っている。
私たちはあくまで医師と患者さんの困りごとを解決するお手伝いをするために存在していて、そのための一つの方法として自分たちが扱っている医薬品がある。
困りごとに寄り添い、その解決を一緒に考える過程で、医師と患者さんが「これは役に立つ」とご本人が判断して利用する。
その結果、医薬品が役立ち、その副産物として売上が生まれ利益が生まれる。
その間にある最も重要な活動をすっ飛ばして、いきなり自分たちに都合のいい結果を求めるなんて、お粗末すぎる。
例えるなら、とにかく女の子とヤりたいからって会って速攻ホテルに連行しようとする、モテないイモ男みたいな感じ。
自分たちに都合のいいデータしか紹介しないのも、話を聞く価値がないと思われる原因。
「自分たちの製品を使ってもらう」という結果有りきなので、必然的に良かったデータしか会社は取り上げないし、自分で調べない社員は会社が教えてくれるデータしか知らない。
そうなると、MRが持っている情報は実に偏った、ご都合主義の代物になる。
そんな情報を、医師が聞きたいと思うだろうか。当然、思うはずがない。
面会してくれている医師でさえ、「はいはい、売りたいから都合のいいデータ持ってきたんでしょ」と思いながら、会社に洗脳されたかわいそうなMRを見るに見かねて、聞いているふりをしているだけだと思う。
コロナを理由に会ってもらえないのは「MRなんてわざわざ会う価値がない」と思われているからだ。コロナのせいではない。ていのいい断り文句として使っているだけ。
医師が信頼するとしたら、同じ目線で現状をとらえ、純粋に力になろうとしてくれる味方だ。
医師は科学者だが人間でもある。自分たちと同じ目線で、より良い未来をつくろうと本気で考え話をする人だから、その人の話を信頼して時間を取ってでも聞きたいと思うんじゃないだろうか。それが人間だと思う。
MRが話を聞いてもらおうと思ったら、まずは目的を根本から見直さなくてはならない。
会う目的はどこにあるのか。売りたいだけなのか、それとも役に立ちたいのか。
医師はたくさんの患者さんを診ているので、人を見るプロでもある。下心で建前だけ並べているような人間は簡単に見抜かれる。
「英語論文なら信じてもらえるかも」などと小手先で説得しようとしてくるようなMRなど、ただただ小賢しい。
しかし、たいていのMRや製薬会社はそんなことはわからない。
あろうことか「医師はプライドが高いからMRを下に見ているので、MRの話を信用しないのだろう」と自分の無能を医師のせいにしている。
何を言っているんだろうか。
自分たちが学歴コンプレックスを抱えているだけじゃないか。
医学部に合格する偏差値がなかった自分たちの歪んだ劣等感を乗り越えられていないので、医師をプライドが高い偏屈で世間知らずの人種だと蔑視してプライドを守る。この傾向は実にずれているし、嘆かわしい。
たしかに、たまにやたらえらそうな態度のデカい先生もいるけど。
医師の世界は学歴バリバリの権威主義社会なので、一定数そういう勘違いしている人が出てくるのも事実。そういう社会の仕組みだから仕方がない。
学歴社会で受験戦争を勝ち抜いた。その成功経験だけがプライドを支えていると、自分を肯定するために学歴や社会的地位で価値を測る人間になってしまう。この社会も、学校という奴隷養成施設で良い子ちゃんでいることを肯定している。お勉強ができて余計な反抗をしない模範的な歯車でいれば大人に褒めてもらえる。
周りの大人の言うことを聞いていれば、偽りの自己肯定感を得られる。
学歴カーストに隷属して褒められることを精神的拠り所にしていると、人間的に成熟することができないまま年を重ね、自信のない傲慢不遜な人間に仕上がる。
そんな残念なタイプの医師にひどいことを言われたりゴミ扱いされたりした経験から、医師への歪んだ敵意が生まれたのかもしれない。虐げられてきた過去は、同情に価すると思う。
でも、そのバイアスで十把一からげに医師全部を色眼鏡で見るのは、どうかと思う。
他人のせいにして、自分が向き合うべき課題とそれに対してできることから逃げているだけ。
特定の医師の価値観が歪んでいるとしたら、それはその人たちの問題である。私たちにはどうしようもない。
売らなきゃいけない、というのはこちらのエゴ。そのエゴが通らないからと、己のチンケなプライドや自尊心を守るために、医師を不当に見下して、MRとしての使命を軽く見た。
その結果が、この惨状だ。
最後に
私は、MRは必要な存在だと思う。
ちゃんと副作用情報を収集して集積し、市場を挟まず適切な使い方について科学的な情報を提供するだけで、充分に存在価値がある。
患者さんの状況は千差万別だ。一つ一つの症例に寄り添ってベストな提案ができる薬剤の専門家は、AIやコールセンターだけではできない。
現在同社のコールセンターの質は残念ながら低く、オペレーターは空気が読めない。自分ならもう問い合わせしないだろうな、という応対で医療関係者をイライラさせるので、あとで謝罪に行かなくてはならないほどだ。仕事を増やすの、本当にやめてほしい。
そういう意味でも、独特の感覚と商習慣をもつ医療機関との橋渡しは、経験豊富なMRでなくては、現状務まらないと思う。外注したり、マニュアル人間に任せられるほどこのサービス業は簡単ではない。
でも、製薬会社が今のままなら、MRは要らなくなるし、製薬会社そのものも衰退する未来しかない。
エビデンス主義や西洋医学の論理が絶対ではないことは、最近の感染症にまつわるあれやこれやで詳らかになってきた。わかるひとはわかっている。
エゴから生まれた化合物なんて飲まないし打たないよ、そんなもの。製薬会社がそんな体たらくであり続ける限り、いずれ製薬会社とかかわりを持つことそのものが経営的なリスクになる。医師を信頼できないとして、患者さんのほうが離れていくだろうから。
もう遅いかもしれないけど。