断酒って、つらいですよね。
おいおい、前向きな話を聞きに来たのに!というそこのあなた。
私はめっちゃ性格暗いので、そんな話はできません。ごめんなさい。
Twitterでは「断酒最高!」「断酒がんばってます!」「お酒をやめて良かった」「飲まないのが一番幸せ」なんてポジティブなコメントをしていて、皆ポジティブでえらいなぁと思います。
私はそんな毎日ポジティブにはなれません。なんかそんなに明るくいつも前向きなんて、そんなわけないやん。実はみんな無理してるんじゃないの?と思います。
正直、おいしそうにビール飲んでるCM観るたびに「酒造メーカー滅びろ」と念じます。
「ウイスキーが、お好きでしょう?」とか、なめてんのか?と思います。好きに決まってんじゃん、浴びるほど飲んで吐いて、記憶も財産もぶっ飛ばしてきてんだよ、こっちは。
そんなつらさに嘘をつかないで、正面から向き合うときに、勇気をもらう漫画の話をしたいと思います。
はじめの一歩「戦後編」とは?
アニメでは、はじめの一歩 Rising (第三期)Round22~25です。
概要
「はじめの一歩」のエピソードの一つ。原作45~46巻(鷹村VSホーク戦直後)、アニメ第3期「Rising」の第22~25話(鷹村VSイーグル戦直後)までが該当する。そのため導入部が少しアニメと原作とで異なる。
いわゆる番外編であり、主人公たちの師・鴨川源二とその親友・猫田銀八の青春時代を描いた回想編である。あらすじ
昭和22年、東京___敗戦から2年が経ち、日本は復興を遂げていた。軍の解体と共に職を失った鴨川と猫田は野原でリングを作り、「拳闘」を開催して日銭を稼ぐ日々を送っていたが、そんなある日、元世界5位の米兵ラルフ・アンダーソンが来訪。日本の拳闘士たちを「ボクシング」で次々に倒し荒稼ぎしていた。敗戦国・日本を見下すアンダーソンに怒りを募らせる二人だったが、そこで米兵たちが投げ込むお菓子に一人だけ手を伸ばさない美少女を見つける。
少女の名はユキ。美しく芯の強い彼女に鴨川と猫田は引かれていくが、ある日の夜、アンダーソンにちょっかいを出されていた彼女を救おうとし、返り討ちに遭う。二人は日本の誇りとユキの笑顔を取り戻すため、アンダーソンをリングの上で倒すことを決意する…。
鴨川源二が貫く『鉄の意志』
まずは、戦後編の試合のクライマックスの一部をご覧ください。(早速ネタバレですみません…)
このボディーブロー、えぐいですよね。
これ、どうやって拳を鍛えたと思います?
自らの拳で丸太を川の土手に打ち付ける荒行を行い、己の拳を文字通りの鉄拳に鍛え上げたんですよ…。
丸太血まみれになるまでパンチし続けて、限りなく固く鋭く重い拳で、自分より体格が大きいラルフ・アンダーソンに挑み、ボディー2発で撃沈させました。
卑怯な戦い方をして親友の猫田の選手生命を絶ったラルフ・アンダーソン。「日本人は戦争に負けたんだから、アメリカ人には一生、首を垂れていればいいんだ」というような侮辱的な言葉を放ちます。
絶対に負けられない。何が何でも勝つ。そのためなら拳が砕けようと構わない、痛みを厭わず、死を厭わず、執念を貫き通す狂気。
それは断酒に似ていると思いませんか?
私たちはとても苦しんできましたね。しかし、残念ながら多くの人に理解されてこなかったのではないでしょうか。今なお、家族にさえ理解してもらえない人もいるでしょう。(だから自助グループがあるのですが。)
「そんなに飲みたいなら、死ぬまで飲み続ければいい」
「そのバカさ加減は、死ななきゃ治らないのか?」
「お前みたいな酒臭いバカ、雇ってやってるだけでありがたいと思えよ」
「はあ、お前なんか早く辞めてくれればよかったのに」
「反省されてもね、迷惑なんだよ。私たちが望んでるのは私たちの前にあなたが顔を出さないことだけだ。」
そんな風に言われて煮え湯を飲みながら働いてきました。
断酒を志したのは、そういう苦くて苦くてとても飲み下せないようなものをもう飲むのは嫌だ、こんなに馬鹿にされながら生きるなら、死ぬか、断酒して生きるかしかない、と思ったからです。それを思い出します。
何が何でも止めてやる。そう決意したのは、なぜだったか?
心が壊れようと、体が壊れようと、命が尽きようと、今までコケにしてきた者どもに一泡吹かせてやるまでは、死んでも死にきれない。
何もかも酒で無くし、最後の最後に残った『ただ人間らしく生きていたい』という尊厳。それすら小馬鹿にされて嗤われて、この大きすぎる恨みを晴らさずに、おちおち死ねるわけないじゃないですか。
だから、私たちは「酒が本来やめられない」と言われている身体になったにもかかわらず、『酒を断って生きる』という狂気を実行しているのです。
私は、断酒をひとりきりではできなかった
団吉「開いた口が塞がらねえ。気迫で押してるぞ。」
猫田「か…鴨川と戦ったことのある貴様…ならわかるだニ。こ…れが鴨川の武器…だニ。」
団吉「鴨川の…武器⁉︎」
猫田「ど…んな障害さあろ…うと初志を貫徹する…鉄の意志。」
団吉「あ、ああ、あの精神力には正直…震え上がったもんだ。」
団吉「意志を貫くためには何も恐れない。死ぬことになろうが恐れはしない。」
団吉「そんな気にさせる眼をしてるんだ。あんな頑固な男は見たことがない!」
猫田「そう…だ、何も恐れない、すなわ…ち…」
猫田「『勇気』!!それがヤツの武器だニ!」
痛みを乗り越える勇気と鉄の意志を持って戦っている私たちを、ちゃんと見てくれていて、同じ戦いに身を投じてくれる仲間の存在ほど、力になるものはありません。
別の話で、はじめの一歩にはこんなセリフがあります。
オレ達だってボクサーのはしくれだ
わかってるよ
アンタが今 どれくらい辛いか どれだけ苦しいか
それでも負けないでくれ 戦ってくれ! アンタは負けちゃいけねえっ!!
~中略~
わかった・・・ よおくわかった
オレを オレを支えてるモノが!!
オレを信じてるヤツラがいる
そいつらの前じゃ強えままでいなきゃならねえ
負けることは許されねえ!
―――たとえ心臓が止まっても 魂で戦う
魂が消えても 棺桶からはい出して キサマに勝つ!!
今の屈辱的な状況を覆すには、勝つこと、ただ勝つことです。
相手は自分です。
己に克つこと。真正面から生き切る覚悟を決めること。
しかし、断酒は独りで続けるには過酷すぎる闘いです。
だから、同じように依存症で苦しんだことのある、屈辱的な扱いや偏見により、死にたいほど惨めな思いを味わい、その苦さを知っている仲間と経験を分かち合うことが、一番の支えになり、私たちは孤独ではないと知ることができるのだと思います。
そして、私たちは信じています。
自分たちが、回復できる、ということを、誰よりも信じている。
だから、仲間も何度つまずいたって、また戻ってこれる、いつの日か必ず生きていて楽しかったと思える日が来ると信じられる。
自分を信じることと、仲間を信じることは、イコールになります。
自分と同じかそれ以上に辛い酒害を背負っていても、回復して断酒を続けている回復者の姿。その姿を見て、私たちは自分も酒をやめられるかもしれない、と希望を持てます。
差別や偏見を持っていた当事者以外の人も救われる
実は、対戦相手のラルフ・アンダーソンも可哀想な人なんですよね。
ボクサーとして最も旬な時期を、日本との戦争に奪われて、腐ってしまっていたのです。
自分の夢を戦争に、日本人に奪われた恨み・悲しみ。その歪んだ思いが、日本人に対しての偏見を生んでいたように思います。
しかし、死力を尽くして戰う姿は、そうした鬱屈した呪いから、自分だけでなく他人も救うことができるのかもしれません。
真摯に断酒を続け、普通に楽しく生活し、あるいは丁寧に仕事をし、回復者として歩み続けること。
それが、冒頭に書いたような「アルコール依存症になるような奴はダメなやつで、早く社会から退場させよう」という歪みを抱え私の尊厳を踏みにじった人々の呪いを解くことに繋がります。
狂気をにじませながら、死んでも諦めない鉄の意志で進む鴨川の「強さ」を認識したラルフ・アンダーソンは、ボクサーとしての誇りを取り戻します。
認めよう この日本人は ―――強い!
凄いボクサーだ
認めたからこそ判定に逃げるなどということはしない
全力で倒しにいく!!
本場 アメリカンボクシングの意地と誇りにかけて
全力で倒す!!
まとめ:断酒はつらい。でも、だからこそ美しい。
断酒は、私にとっては、楽しくて素晴らしいキラキラ☆ライフみたいなもんじゃ、決して、ないです。
いつも酒は近くにあるし、コンビニやスーパーや居酒屋など、油断すればすぐ手が届くところにあります。アルコール依存症患者は、常にスリップ(再飲酒)のリスクと隣り合わせの日々です。
辛さを見ないようにしていると、イライラします。
本当に何も知らずに、依存症などにもならずに、パーティーを楽しんだりしているのは、うらやましいに決まってます。
そういう、認めたくないうらやましさや腹が立つ気持ち、ドロドロとした醜い感情も、私たちのそのままの感情なんだから、認めたっていいじゃありませんか。
だってそうでしかないんだもの。
それを「くそが、なめやがって」とか悪態を吐きながらだって、血反吐を吐くようなストレスのなか、肉を切らせて骨を断つ気持ちで一日一日を過ごしているだけで、立派だと私は思います。みんなえらいよ、断酒しようってだけで、えらいよ。
一緒にぼちぼち頑張っていきましょう。お互い、健全に、断酒に狂っていきましょう。
なんか、今日はそんなことを書きたくなりました。