こんにちは、ちあき です。
現在、ADHD治療薬には3種類の薬剤が発売されています。
ご専門の先生が様々な患者さんとの治療経験に基づいて治療しておられるので、主治医の先生によくご相談するのが最も重要なことであると前置きしたうえで、現在使える薬がどんな効果があり何に注意しないといけないのか、考えていきます。
脳の部位とモノアミンと脳の機能について
薬剤の話に入る前に、脳のどこと障害が繋がっているのか、整理しておきましょう。
☆表記方法
〇困りごと(障害の名前)
=脳の部位:関与しているモノアミン神経
☆脳の部位の解説
①やるべきことに集中できない(実行機能障害)
=前頭前野:ドパミン神経系・ノルアドレナリン神経系
☆前頭前野とは?=高次な認知・実行・情動・動機つけ・意思決定。
前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。前頭前野は系統発生的にヒトで最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。
②我慢ができない(遅延報酬障害)
=腹側線条体:ドパミン神経系
☆腹側線条体とは?=快感・報酬・意欲・嗜癖・恐怖の情報処理。
腹側線条体はHeimer らによって提唱されたコンセプトで、側坐核とその周辺の領域を含む。入力元は腹内側前頭野・前頭眼窩野・島皮質といった皮質、扁桃体・海馬・視床髄板内核群を含む皮質下領域と中脳のドーパミンをはじめとした神経伝達物質関連領域であり、出力は、大脳基底核の腹側淡蒼球と黒質網様部・緻密部、基底核外への投射としては外側視床下部・脚橋被蓋核・中心灰白質・分界条床核がある。これらの領域間の情報統合とドーパミンを中心とした神経伝達物質物質の作用により、快感・報酬・意欲・嗜癖・恐怖の情報処理に重要な役割を果たし、意思決定や薬物中毒の病態の責任部位であると考えられている。
③段取り・要領が悪い(時間処理障害)
=小脳:ノルアドレナリン神経系
☆小脳とは?=学習機構があり、主に運動を制御する。
小脳は大脳の尾側、脳幹の背側に存在する。小脳皮質とその深部にある白質からなり、さらに白質の中に小脳核が存在する。原始小脳である片葉、垂と小節、中央に古小脳である虫部、外側に新小脳である半球に大別される。半球と虫部はさらに溝により葉に分けられる。小脳の神経回路は学習機械と考えられる。小脳の出力細胞であるプルキンエ細胞には、末梢感覚器や大脳皮質に起源をもつ情報が苔状線維―平行線維を介して入力するが、それらは、下オリーブ核に起源をもつ登上線維の入力により修飾を受ける。さらにプルキンエ細胞の出力は小脳核に伝えられ、そこでさらに長期記憶として保持される。小脳皮質にはプルキンエ細胞以外に4種類の主要な神経細胞が存在し、プルキンエ細胞の信号伝達の特性や可塑性を調節する。小脳はこのような学習の機構を用いて、運動が正確かつ円滑に行われるようにフィードフォーワード制御を行う。また小脳は情動や認知機能の遂行にも関与すると考えられている。
出典:児童青年精神医学とその近接領域 Vol. 58, No. 1 S13︲3.成人の ADHD の薬物療法(大髙一則,岡田俊)
これら3つに加えて、もう1つ。
④イライラする(情動調節障害)
=扁桃体:神経系は特に限定的ではない(特定できない)
☆扁桃体とは?=恐怖感、不安、悲しみ、喜び、直観力、痛み、記憶、価値判断、情動の処理、交感神経に関与。
扁桃体(へんとうたい)は、神経細胞の集まりで情動反応の処理と短期的記憶において主要な役割を持ち、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割も担っています。
うつ病発症のメカニズムとして、強い不安や恐怖、緊張が長く続くと扁桃体が過剰に働きストレスホルモンが分泌され長く続く事により神経細胞が萎縮して他の脳神経細胞との情報伝達に影響し“うつ病” 症状が発現すると考えられています。
扁桃体の役割は、海馬からの視覚だったり味覚だったりそういう記憶情報をまとめて、それが快か不快か(好き嫌い)を判断。何かの行動が快不快感情を生んで、その情報を海馬へと送るというように、海馬と扁桃体は常に情報が行き来しています。
痛みやストレス状態になると扁桃体が興奮します。
前頭前野は扁桃体の興奮を鎮めますが、痛みストレスが継続的に起こる場合は、扁桃体が興奮しっぱなしとなると痛みが増幅され血圧上昇、不眠となります。
体に触れることにより視床下部で合成され下垂体からオキシトシンを分泌させることにより扁桃体の興奮を鎮静化します。
脳には様々な部位とそれに応じた役割があります。
それぞれの部位によって関与しているモノアミンも異なります。
表に出ている障害を上記のように3つに分け脳の部位とモノアミンに分けて整理すると、薬剤の特性がより分かりやすくなります。
1、コンサータ(メチルフェニデート)
ドパミン再取り込み阻害剤で、分類としては中枢刺激薬です。
ということは、ドパミンを増やしてあげるので、上記でいう、①やるべきことに集中できない(実行機能障害)、②我慢ができない(遅延報酬障害)に影響します。
主に報酬系の強化により「我慢ができるようになる」というのが親や学校の先生としては感じるところです。
即効性があり、服薬したその日から効き目を実感することもあります。不注意・多動へ強力な効果があります。
本人の実感として「やらないといけないことを我慢してできるようになる。でも効きすぎるとやらないといけないことが目の前にたくさん常にあってしんどい。」というような感想を聞きます。
2、ストラテラ(アトモキセチン)
ノルアドレナリン再取り込み阻害剤で、分類は非中枢刺激薬です。
ということは、ノルアドレナリンを増やしてあげるので、上記でいう、①やるべきことに集中できない(実行機能障害)、③段取り・要領が悪い(時間処理障害)に影響します。
効果発現は数週間かかり、ゆっくりです。
段取り・要領の改善が見られます。親からみると「何も言わなくても優先順位をつけてちゃんとやるべきことをするようになる」と感じられそうです。
本人の実感として「やるべきことの順番がよく見えるようになるけど、いつもやっていた考え事ができなくなった。」などという感想を聞きます。
3、インチュニブ(グアンファシン)
選択的α2A受容体アゴニストで、分類は非中枢刺激薬です。
???となりますが、前頭前野や大脳基底核に作用しノルアドレナリンを中心としてシグナル伝達を増強する可能性が示唆されておりますが、作用機序は不明です。大脳辺縁系や扁桃体に働き、抑制する可能性もあるのではないか、と一部の医療関係者の間では言われております。
ということで上記でいう、①やるべきことに集中できない(実行機能障害)③段取り・要領が悪い(時間処理障害)④イライラする(情動調節障害)に影響します。
数日で効果を実感でき、比較的速やかな効果発現が期待できます。
情緒的な安定感が生まれます。怒りで衝動的に手が出たり暴言を吐いたりしてしまうことが少なくなり穏やかになる傾向があります。
親から見ると「落ち着いていて、怒りっぽくなくなる」ようです。
本人の実感として「心が落ち着いて優しい気持ちでいられる。心が穏やかに過ごせるのはとても快適。だけど、飲み始めたときはすごく眠たかった。」などという感想を聞くことが多いです。
まとめ
薬は、あくまでも手段の一つです。
孤独を感じにくく楽に生きられる「マジョリティー」であってほしいという親の願いを優先するのが最良なのでしょうか?たとえるならば、異性愛者が同性愛を強要されるようなもの(逆もまた然り)と同じ息苦しさを私は感じてしまいます。
それこそ、その子自身が判断することであり、本当の自分を消してまで社会に適応するかどうかは、その子が人生の中で選び取るべきことかもしれません。
その子がより自分らしく生きていくために、薬も治療も存在しています。
親が「受験だから」「学校でおとなしくしていてほしいから」「会社に行って自立してほしいから」という自分の想いだけで判断することがないように、願うばかりです。