MRとは「Medical Representative」の略で、日本語では「医療情報担当者」つまり製薬会社の現場担当者である。
日本のMRは、海外に比べてその存在を尊重されていない。
海外旅行で出会ったチェコ人やアメリカ人に「何の仕事をしているのか?」と聞かれて「私は日本でMRをしている」というと、握手を求めてくれたりする。
日本以外では握手を求められるほど素晴らしい職業だと認識されているということだ。
日本と海外では、なぜこれほどまでにMRという職業に対する認識に違いがあるのだろうか?
売れればなんでもいいという医療従事者としての意識の低さ
海外のMRは接待が違法だ。法律で禁止されている。
だから絶対に個人的な癒着などで処方をお願いしようなどとはしない。
あくまでも、MRとしての技術や能力で医師に貢献するため、深い知識を身に着けて対等にはっきりと医師に対して提案し主張するべきを主張する。
そういう誇り高い働き方をしている。
一方、日本のMRはといえば、勝てば官軍負ければ賊軍、と言わんばかりで、とにかく自社の製品が売れさえすればいいと思っている人間が大半を占めている。
ルール内でありとあらゆる手を尽くす。ときにはルールを逸脱してでも倫理観や医療従事者としての規範を放り捨てて売り上げのほうをとる。
そういう下品さが、日本におけるMRの特徴だ。
なぜそんなに下品になってしまったかと言えば、どれだけ医療に貢献していようといまいと、結局は売上で評価されるからだ。
そりゃあ、現場感覚も歪むだろう。
副作用情報を一回も聴取したことがないMRがマネージャーに昇進したりするのだから、(真剣に症例に向き合い、医師と薬剤の話をしていたら確率的にはあり得ない)部下はとにかく売上さえあげておけばいいと思って当然だ。
副作用(AE)情報の収集などは、売上に関係のない『余分な仕事』だと本気で思っているMRが今もまだいることに、私は驚きを隠せない。MRにとってAE情報収集は最も重要な仕事のひとつであり、むしろそれさえちゃんとしていれば本邦においてもまだ存在意義があるんじゃないかと思うが、AEの収集や薬剤の適切な処方方法についてフラットな話ができないようでは、本当に居る意味がない。本当に要らない。
患者さんを大事にしようがしまいが、とにかく薬が売れればいい、それが今まで現場を跋扈していた「デキるMR」という痛い生き物である。
MRに対する医師の不信
だから医師は、MRが話すことなど信じなくなってしまった。
「結局こいつらは売れさえすればいいのだ。いいことしか言わない。」
「売り上げに影響しそうなマズい情報は、本当に大事な情報だったとしても隠すやつらだ。信用ならない。」
そうやって諦められてしまった。
だから、訪問を断られる。
なぜなら、話す価値がないからだ。
そりゃそうだ。自社に都合のいいことばかり言って、本当に伝えてほしいリスクの部分をちゃんと伝えないような人間に会う時間は、唯々もったいない。私だって断るだろう。
医師はMRに会うよりも、ネットで情報を集めるようになり、何か困ったら製薬会社の問い合わせ窓口に電話するようになった。そのほうが正確だし早いから。
本来MRが充足するはずだったソフト面のサービスを、他で代替せざるを得ない状況をつくってしまったのは、製薬会社自身である。
売上で評価して、数字として表れないMRとしての働きを評価しなかった。そういう人事面での評価を簡略化した怠慢が、信頼の喪失という最悪の形で表出しているに過ぎない。
MRの技量不足ではない。会社のそもそもの体質と経営方針が、問題なのだ。
迷走する哀れなMRたち
信じてもらえないから、より屈折したアプローチに傾倒していくMRたちを何人も見てきた。
会社が信じてもらえないから、自分という人間を信じてもらえるように頑張る。それはすなわち個人的な癒着に他ならない。
そんなMRを取り巻く環境は、コロナ流行以前に比べて、以降は特に厳しい。
「会わなくてもあまり医療に関係ないんだ」ということが、医師にも会社にもわかられてしまったと言ってもいいだろう。
それは製薬会社そのものが、本来あったMRの役割や良さをどんどんこそげ落としてきたからだ。しかし現場のMRたちは、少しずつ会社に洗脳され、じわじわと翼を毟られていたとは、今まで自覚してこなかったので、自力では飛べなくなっていることに今更気づいて青ざめている。
そういう意味では、そもそも医療者として思慮が浅すぎることこそMRの罪だったのだが、いまさら言っても詮無き事。
会社が言うとおりに訪問して、製品をコールしてコールして、売上が上がれば褒めてくれる会社のためにシャカリキになって頑張った。そんな共依存的で忠実な奴隷社員が、今マネージャーとして現場を統括しているのだから、もう目も当てられない。
もう会社に褒めてもらうというくだらない承認欲求のために、一度しかない貴重な人生を犠牲にするべきではない。
早期退職制度が各製薬会社で推奨されはじめて久しいが、ついに先日武田薬品でも開始されたとニュースになっている。「フューチャー・キャリア・プログラム」などと呼称し、「キャリア支援の一環」と称してはいるが、とどのつまりはリストラである。
今までのような会社の奴隷ではなく、地頭で考えて社内評価などという些末な価値観に左右されない医療従事者としての矜持と信念を持った者でなければ、もう務まらない職業になってきた。
そして、それはあるべき姿に戻ろうとしている過渡期の姿でもある。
これからあるべきMRの姿
正直、訪問や情報伝達は、2〜3ヵ月に1回でいい。
①取り扱っている製品知識と②製品の対象疾患知識、③対象疾患に関連する併存疾患知識。これを医師とディスカッションできるレベルにすることが前提条件である。
今までのMRは勉強しなさすぎ。せめて上記の3つは会社の教育制度に頼らず、毎日勉強してしかるべきだと思う。
勉強と称して日々受けさせられていた製品の社内教育は、聞き流しておこう。
売るためだけの指導プログラムはもう要らない。そういう社内教育は全部無視していい。会社都合の洗脳プログラムであり、聞くだけ無駄。
また、これは本社マターになるが、マネージャー登用はマネジメントの能力を評価する独自のジョブポスティング制度を設けて、実績にかかわらずマネジメントの能力でポジショニングするのが良い。
そうでないと、またしょうもないマネージャーが量産されてしまう。現場で実績を残せる人と、素晴らしいマネジメントができる人は、イコールではない。そもそも特性が違うし、役割が違う。
マネージャーを昇進と位置付けるからおかしなことになる。「かつて売る技術に長けていた者が売りつけるノウハウを部下に教える役割」と勘違いしているマネージャーが多いようだが、そんな役割はもう要らないし、そもそも売ることが目的ではない仕事でこれ自体おかしい。
マネージャーは、MRに適切な情報活動ができるようサポートするJOBのひとつ。
そうなりたいひとが現場を経験しながらマネジメントを学び、ジョブポスティング制度でテストしてから配置して、現場で適性が確認された者のみを採用しつづければよい。
今後、そうした在り方が正しかったということを、自分の身をもって証明していけたらいいな、と思う。