【依存症】アフターコロナの世界、自助グループの新しい在り方とは?(リアル自助vsオンライン自助)

新型コロナウイルスにより一変した私たちの日常。厚労省から発出された「新しい生活様式」の実践例が『新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(5/4 厚生労働省HP)』に記載され、各業界が試行錯誤しながら新しい在り方を実現しようと四苦八苦している。

感染防止の3つの基本として掲げられているのが、①身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗いである。

これからは常に直接的な接触を避けて生活することが求められる。

人と人との繋がりの在り方は少しずつ変わっていくのだろう。

依存症者の回復プログラムとして欠かせない「自助グループ」の在り方も、この社会情勢に対応するべく変化しつつある。

「自助グループ」とは?

自助グループとは、同じ問題を抱える人やその人を大切に思う家族らが自主的に集まり、似たような立場や経験を持つの多くの仲間と出会い、交流しつつ、助け合える場所です。グループメンバーと体験談、想い、情報、知識などをわかちあうことで、気づき、癒し、希望や問題解決へのヒントなどを得る人が多くいます。

自助グループの始まりは、1935年の米国でアルコール依存症に悩む人々自らが結成したアルコホーリックス・アノニマス(AA)です。原則的に当事者以外の専門家らの手に運営を委ねない独立したグループであることが特徴です。依存症からの回復を目指す過程で、ありのままの自分が受け入れられる居場所を見つけたい方、回復の道のりで迷ったり、疲れ果てた方、アルコール・薬物・ギャンブルなどを必要としない新しい生き方を、似た境遇の仲間と助け合いながら創り出していきたい方、など多くの方が活用しています。自助グループへの参加は、医療機関での治療と並行して行うことも可能です。

出所:依存症対策全国センターHP「自助グループとは」より引用

同じ悩みを持つ人々が主体的に集まり、お互いの経験を共有しあうことで、助け合い回復を目指している。

心の安全が守られる場所として、依存症からの回復のよりどころとなっていて、無くてはならない社会資源である。

私自身、断酒会を経て現在はAA(アルコホーリク・アノニマス)に所属していて、アルコール依存症当事者として自助グループにお世話になっている。

同時にAC(アダルトチルドレン )でもあり、ACA愛媛グループの管理者を担っている。

参加者側・運営側の両側面で自助グループに関わるチャンスをいただいていて、ありがたいことである。

2020年3月にコクラン共同計画により発表された約1万人・35件の研究をメタ解析したデータによれば、AA(アルコホーリクス・アノニマス)は認知行動療法や動機付け強化療法よりも効果があると結論付けられており、その効果は、心理療法を含む他の治療よりも、最大で60%程度効果が高い可能性があるとされている。※1

現在、さまざまな悩みに対応した自助グループがある。

アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル依存症、買い物・浪費・借金依存、性依存、恋愛依存、感情・情緒の問題、共依存、AC、ゲーム依存、ひきこもり、トラウマ、対人恐怖など、医学的に依存症という疾患として扱われている問題に加えて、様々な生きづらさに対応している。

★参考文献

1、『Alcoholics Anonymous and other 12‐step programs for alcohol use disorder(Cochrane Systematic Review – Intervention Version published: 11 March 2020)John F Kelly,Keith Humphreys,Marica Ferri』

2、特定非営利活動法人アスク「自助グループ_一覧」

コロナ禍で生まれた「オンライン自助」という新しい在り方

そんな社会的にも医学的にも重要な自助グループだが、コロナ真っ只中では、3密になることから全国で開催が中止されてしまった。

回復のための重要な、自助グループというかけがえのない居場所を奪われた当事者たちは、当時本当に苦しんだ。

未知の脅威にさらされてストレスがかかる当時だったからこそ必要である自助グループを機能させようと生み出されたのが、「オンライン自助グループ」である。

たとえば、コロナになる前から機能していたオンライン自助グループとしては、『三森自助グループの森』がある。※4

コミュニケーションアプリ『LINE』を用いていて、主宰の三森みさ氏(@mimorimisa)を中心として実際の自助グループを経験したことのあるメンバーを監修に招き独自のシステムを構築している。

私自身もリアル自助グループ経験者であることを買われて創設メンバーとして呼んでいただき、発足当初より運営に携わっている。

その他のオンライン自助グループについては『とどけるプロジェクト』の一環として、アドボケーターでジャーナリストのKarma氏(@k6rm6_2)がまとめてくれている。

非営利活動法人アスクの「ASK依存症予防教育アドバイザー」による自主活動『依存症チャットルームA.D.N.G.』などが代表的である。すでにわかりやすくまとめてWEB上で発信されているので、以下の参照リンクをご覧いただきたい。※1,2,3

★関連・参考リンク

1、とどけるプロジェクト「依存症等の当事者または家族向け、オンライン自助グループの開催情報」監修:松本俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 精神科)、ライター:karma、編集:向井愛

2、とどけるプロジェクト「依存症等の当事者によるオンライン自助グループ運営ガイド」監修:三森みさ(依存症予防教育アドバイザー、三森自助グループの森 主宰)、松本俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 精神科)、ライター:karma、編集:向井愛

3、特定非営利活動法人アスク「コロナに負けない!オンラインで自助グループにつなぐ、依存症チャットルームA.D.N.G.開始【ASK依存症予防教育アドバイザーによる自主活動】」

4、MimoriMisa ART Graphics「三森自助グループの森について」三森みさ(依存症予防教育アドバイザー、三森自助グループの森 主宰)

リアル自助とオンライン自助のメリット・デメリット

私は両方のタイプの自助グループに携わってみて、それぞれによさがあると感じている。

一覧にまとめると、上記の図のようになる。文章でまとめると、以下のとおりである。

□リアル自助のメリット

・五感を使って分かち合いができる。

・時間と空間を共有することで、集中して分かち合いができる。

・分かち合いのスピードがオンライン自助よりも早い傾向がある。

・運営側の負担が少ない。(体系化され、年功序列など集団心理が働くため収拾がつきやすい)

・ネットの知識がなくても足を運べばだれでも参加できる。

・依存症や抱えている問題についてカテゴリがはっきりしている。

■リアル自助のデメリット

・地域・時間が限定されるため、予定が合わないと参加できない。

・移動手段がないメンバーの交通手配が必要。

・会場に行くことへの抵抗感からネットに比べて参加しづらい。

・気楽に転籍・脱退ができない。(よいことでもあるが)

・簡単には、時間や場所を変更できない。

・クロスアディクトの場合、それぞれの自助に行く必要がある。(時間的・空間的制約が増す)

◇オンライン自助のメリット

・エリアを限定せず、様々な地域の人と分かち合いができる。

・時間的・地理的に足を運ぶことができない当事者や、子育てなど家庭の事情で参加が難しい当事者が、早期に自助に繋がることができる。

・ネット環境があればだれでも気軽に参加できる。(参加に対する抵抗が少ない。)

・匿名性が高く、人目を気にせず分かち合いができる。(カメラをオフにできる、文字だけで顔が見えないメリット)

・若い世代にアウトリーチすることができる。

・開催時間をフレキシブルに変えられるので、様々な層の人に参加してもらえるように調整できる。

・自助によっては広く問題を取り扱うため、1つのグループに所属していれば様々な悩みを分かち合うことができる。

◆オンライン自助のデメリット

・LINEの場合、文字だけだと誤解が生まれやすい。

・LINEの場合、ある程度の文章力が必要。

・顔が見えないため微細な感情が伝わりにくい。

・制約がなく繋がりやすいからこそ時間にルーズになりがち。

・運営側の負担が大きくマンパワーが必要になる。

・運営に際してルール化が必要になる。

・年配の方やネットに詳しくないメンバーが技術的な問題で参加しにくい。

リアル自助は「参加者の充実感・組織としての安定性」という良さが浮き彫りになった。

オンライン自助は「参加しやすい手軽さ・企画の多様性」が特徴になるだろう。

どちらにも替えられない良さがあり、今後はこの2つをハイブリッド型で活かしていくことが理想的だと思う。どちらが優れているとか、劣っているとか、そういう比較に終始するのは実にもったいない。

せっかく生まれた新しい在り方にダイバーシティ&インクルージョンの精神で親和的に接していく度量の大きさが、特に支援する側には必要ではないかと感じている。

まとめ:恐れず、時代に合わせた在り方を歓迎しよう

テレビ業界や紙媒体でのメディアは、日本においては能や歌舞伎と同様に、伝統芸能の領域にシフトしつつあると感じている。

テレビや本に対して「古い」という意味で忌避しているわけでは決してなく、伝統芸能にはそれらしい良さと在り方があるように思う。

今の若い世代は、オンラインで友達とやり取りし、コンテンツをYoutubeで摂取して、異なった価値観をもって大きくなってくる。

今までのように講演会を開いて聴講しに来てもらうより、スマホでオンライン配信している講演のほうが彼らの目に触れやすく、受け容れられやすい時代が、もうすでに来ている。

そうした時代に、依存症について情報発信したり、社会資源としての自助グループによりアクセスしやすい状態を実現したりするためには、やはり「オンライン自助」という在り方を今もこれからもどんどん進化させていくことが重要だと思う。

どちらかである必要はない。私たちアディクトの在り方がそれぞれの「ありのまま」でいいように、自助グループの在り方も「こうあるべき」に縛られて衰退することがないように、支援していきたいと思う。

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