こんにちは、ちあき です。
AAAの浦田直也氏の暴行事件が報道され、SNSで触れられることが多くなっています。
逃げた女性、追いかけて蹴る…AAA浦田容疑者
人気グループ「AAA(トリプル・エー)」のリーダー浦田直也容疑者(36)が暴行容疑で逮捕された事件で、浦田容疑者が逃げる女性を追いかけ、蹴っていたことが捜査関係者への取材でわかった。浦田容疑者は21日、東京地検に送検された後、釈放された。警視庁月島署が今後、任意で捜査を続ける。
捜査関係者によると、浦田容疑者は19日午前5時頃、東京都中央区のコンビニ店で、面識のない20歳代の女性に「飲みに行かないか。自分はAAAのメンバーだけど知らないか」と声をかけた。女性が「知らない」と答えると、平手で頬を殴り、店外に逃げた女性を追いかけて足を蹴ったという。
浦田容疑者は21日夜、所属事務所で記者会見し、「被害者に大変なご迷惑をおかけしたことを心よりおわびします」と謝罪した。事件前日の18日夜はウイスキーやワインなどを20杯以上飲んだといい、「最後は自分が何を飲んでいたのかもわからない状態だった。事件のことは記憶になく、警察から言われて知った」と話した。
出典:読売新聞記事
「彼はアルコール依存症か、そうでないか」について意見が結構分かれています。
依存症か、そうじゃないか、ってどういう基準で判断できるんでしょうか?
なんとなくモヤモヤしたので、エビデンスのある事実をもとに、考えをまとめてみたいと思います。
最新のアルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインでの考え方
アルコール依存症の治療に関連して、新しいガイドラインが2018年に公開されました。
新ガイドラインは、プライマリケア医や内科医、研修医が治療に応じる機会の多いと思われる初期のアルコール依存症患者に焦点をあて、精神科などの専門医療機関でなくても対応が可能となることを目的として作成されています。
なぜなら、アルコール依存症は専門医療機関に紹介することが望ましいとされてきましたが、実際には専門医療機関の数が少ないといった医療資源の課題や、専門医療機関への紹介の同意が得られない方、遠方のために通院ができない方が一定数存在するといった患者要因などから、プライマリケア医や内科医、研修医が初期対応を行う必要があるからです。
また初期対応が可能になることでアルコール依存症の早期発見・治療につながること、ひいては治療のギャップを少なくすることに有用と考えられます。
今までアルコール依存症の治療は断酒の達成とその継続を目標とし、アルコール依存症の専門医療機関を中心に行われてきました。
しかしながら、断酒を治療目標とする事に抵抗感を持つ患者(特に初期のアルコール依存症患者)が多くいたことが、上記の治療のギャップの原因の1つと考えられます。
これに対し、近年、すぐに飲酒をやめることができない場合は飲酒量を減らすことから始め、飲酒による害をできるだけ減らすという“ハームリダクション”の概念が提唱されています。
この概念は、アルコール依存症の治療のギャップを少なくすることに有用と考えられ、わが国においても欧米に遅れることなく飲酒量低減という治療選択肢を加えた新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインとして2018年に公開されたのです。
※「ハームリダクション」は、すぐに断酒できない場合の段階的に「減らす」中間目標であり、最終的には断酒がゴールになります。現在の医療において断酒ではなく節酒を推奨するという解釈は正しくありません。あくまで、初期のアルコール依存症の段階で治療から離脱してしまわないために、取り入れられた考え方です。
出典:新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】
医師が依存症と診断する基準は2つ 「ICD-10」と「DSM-5」
アルコール依存症の診断は、主に『 ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)(医学書院)』が用いられます。
ICD-10に記載されている「依存症候群」は、ある物質を使用することが、他の行動よりもはるかに優先するようになる生理的、行動的、認知的な現象のことを指します。
精神作用物質(薬物など)、アルコール、タバコを使用したいという欲望が非常に強くなり、時に抵抗できないほど高まる状態です。
例として、アルコール依存症は、平日・週末を問わず、飲酒しなければ我慢しがたい欲求に駆られます。症状が重くなると、入手可能な物質ならどのようなものでも使用したいという衝動を常に感じ、使用を絶つと苦悩、感情の激しい高ぶりなどが見られるようになります。
■「ICD-10」診断基準
以下の 6 項目のうち、過去 1 年間に 3 項目以上が同時に 1 カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合 “アルコール依存症” と診断されます。
1、渇望:物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。
2、飲酒行動のコントロール:物質使用の開始、終了、あるいは使用量に関して、その物質摂取行動を統制することが困難。
3、離脱症状:物質使用を中止もしくは減量した時の生理学的離脱状態。その物質に特徴的な離脱症候群の出現や、離脱症状を軽減するか避ける意図で同じ物質(もしくは近縁の物質)を使用することが証拠となる。
4、耐性の増大:はじめはより少量で得られたその精神作用物質の効果を得るために、使用量を増やさなければならないような耐性の証拠(この顕著な例は、アルコールとアヘンの依存者に認められる。彼らは、耐性のない使用者には耐えられないか、あるいは致死的な量を毎日摂取することがある)
5、飲酒中心の生活:精神作用物質使用のために、それに代わる楽しみや興味を次第に無視するようになり、その物質を摂取せざるを得ない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する。
6、有害な使用に対する抑制の喪失:明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として物質を使用する。例えば、過度の飲酒による肝臓障害、ある期間物質を大量使用した結果としての抑うつ気分状態、薬物に関連した認知機能の障害などの害。使用者がその害の性質と大きさに実際に気付いていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない。
彼は会見で「もうお酒は飲まない」と公言しましたが、もし再度飲み始めて1ヶ月経過しまった場合、1・2・6に該当するので、医師がその時点で診断するとしたら、「アルコール依存症」でしょう。
もう一つ、『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)』があります。
DSM-5では「物質使用障害」として、同様の疾患について記載されています。アルコール、大麻、幻覚薬、吸入剤、オピオイド、鎮静薬、睡眠薬、抗不安薬、神経刺激薬、タバコ、その他のすべてにおいて、強烈な渇望を抱くようになる状態を指します。
■「DSM-5」診断基準
診断基準は、「制御障害」「社会的障害」「危険な使用」「薬理学的基準」の4群に分けて考えることができる。一般的な評価として、2~3つの症状が当てはまれば軽症。4~5つの症状が当てはまれば中等度、6つ以上は重度の物質使用障害と考えられる。
基準1 その人は当初意図していたよりも、より多量にまたはより長期間、物質を使用するかもしれない。
基準2 その人は物質の使用を減量または制御しようという希望を持続的に表明しているかもしれないし、使用量を減らしたり使用の中断を試みたりした時の失敗を報告するかもしれない。
基準3 その人は非常に多くの時間を、物質の獲得、物質の使用、物質の作用からの回復に費やす場合がある。
基準4 渇望は薬物に対する強烈な欲求または衝動となって表れ、それはいかなる時も出現することがあるが、特に出現しやすいのは、かつて薬物を獲得したり使用したりした環境においてである。
基準5 物質使用を繰り返した結果、職場、学校、または家庭で果たすべき重要な役割責任を果たすことができなくなることがある。
基準6 物質の作用によって引き起こされたり、悪化したりした、社会上のまたは対人関係上の問題が持続したり、繰り返されたりしてもなお、その人は物質使用を続けるかもしれない。
基準7 物質使用の結果、重要な社会的、職業的あるいは娯楽的な活動が放棄されたり、縮小されたりするかもしれない。
基準8 身体的に危険な状況で物質を繰り返し使用するという形をとる場合がある。
基準9 持続的または反復性の身体的または精神的な問題が物質によって引き起こされた、あるいは悪化したらしいとわかっていても、その人は物質使用を続けることがある。
基準10 望むような効果を得るために必要な物質の量が著明に増大するか、または通常量を摂取した際の効果が著明に減弱する。
基準11 離脱。物質を長期にわたって大量に摂取していた人において、血中あるいは組織内の物質の濃度が減少した時に生じる症候。
つまり、「社会的障害」の項目である、5・6・7に当てはまるので、「軽度アルコール使用障害」と診断される可能性があります。
医学的には、この2つの基準の項目にあてはまる可能性が場合(自己診断ではなく、客観的にみて当てはまるという意味で)、「アルコール依存症の疑い」となり、「アルコール依存症」の病名が付くかつかないかは、医療機関で医師が診て決めます。
したがって、医学的には「依存症かそうでないか」を判断できるのは、『診断をする医師だけであり、私たち素人が無責任に、依存症かそうではないかを判断するべきではない』といえます。
「疑いがあるかどうか」はどう判断するの?
では、その前段階、「アルコール依存症の疑い」は、どう判断するのでしょうか?
一般的にアルコール依存症のスクリーニングには3種類のテストがあり、『新久里浜式アルコール症スクリーニングテスト』、『CAGEテスト』、『AUDIT』があります。
新久里浜式・CAGE テスト サイトリンク
AUDIT テスト サイトリンク
新久里浜式やCAGEはアルコール依存症専門病院で診断に使用されてきた実績があり、医療機関のHPによく掲載される傾向にあります。
おもしろいことに、AUDITはWHOが作成しているのですが、アルコール飲料製造メーカーが好んでHPに掲載しています。
メディアで得られる情報は限られますし真偽のほどがわからないのでこれは正確ではないかもしれませんが、得られた情報だけでスクリーニングテストを実施擦れると、いずれのスクリーニングでも浦田直也氏はハイリスクだと判断できます。
つまり、スクリーニングテストの観点で考えれば、彼は「アルコール依存症の疑い」であると言えます。
しかし、今回のケースは「ビンジ飲酒」によるものであり、アルコール依存症ではないのでは?という見解もあります。
「ビンジ飲酒」とは何か?
ビンジ(binge)とは、「大量に短時間で」という意味の形容詞です。
つまり、「ビンジ飲酒」とは、「大量に短時間で飲酒する行為」を指します。
では、大量・短時間の定義はなんなのか?
内閣府で平成27年6月12日に行われたアルコール健康障害対策関係者会議において、久里浜医療センターの樋口進委員が次のように用語を説明しています。
ビンジ飲酒(Binge drinking)
・ 短時間に大量に飲酒すること(日本におけるコンセンサスなし)
・ WHOでは「heavy episodic drinking(大量機会飲酒)」を、1回
60グラム以上の飲酒を30日に1回以上する飲酒と定義
・ 米国NIAAAは、「アルコール血中濃度が0.08g/dLに達する飲
酒」と定義。通常の男性は5ドリンク(70g)、女性は4ドリンク
(56g)を2時間以内に飲酒した場合」(米国の1ドリンクは14g)
アルコール60gとは、どのくらいの量なのでしょうか?
■アルコール20gに相当するアルコール飲料の量
日本酒なら、3合
ビールなら、1.5リットル
ウイスキーなら、ダブル3杯
缶酎ハイなら、4.5缶
これくらい空けてしまう日が月1回でもあったら、「ビンジ飲酒」です。
浦田直也氏は当時、朝まで飲んでいて酩酊状態になり、記憶がなくなっている状態です。
「ビンジ飲酒」により、記憶をなくす=「ブラックアウト」を起こしています。
このように、酔い方に異常があるケースを、「異常酩酊」と定義します。
酔い方の異常「異常酩酊」は2種類
飲酒してアルコール血中濃度に応じた通常の酩酊を単純酩酊と言います。
一方で血中濃度に対応しないような著しい興奮や幻覚などの精神症状を伴うような酔い方があり、異常酩酊として区別されます。一般的に酒乱と呼ばれる酔い方はこれに含まれます。
日本で使用されている代表的な酩酊分類にBinderの分類があります。
普通の酔っている状態から病的な酩酊状態までを3つに分けています。
そこでは単純酩酊と異常酩酊に大きく二分され、
異常酩酊はさらに
単純酩酊と量的に異なる複雑酩酊 と
単純酩酊と質的に異なる病的酩酊 に 2種類に分類されています。
このような分類は、客観的な身体的指標によって決定することができず、症候学的な観察に基づいています。
複雑酩酊は、飲酒によって気分の刺激性が高じて、著しい興奮が出現します。持続時間はかなり長く、一時的に鎮まっても興奮が再燃して波状的な経過を辿ることがあります。平常時では抑えられている脳機能の衝動性や未熟性がアルコールによって賦活されたと考えられます。重大な情動犯罪や突発的な自殺につながることもしばしばあります。酩酊時の記憶は断片的であることが多いですが、概括的な記憶は保持されており、限定刑事責任能力が認められます。
病的酩酊は、意識障害があり、単純酩酊や複雑酩酊とは質的に異なる状態像を呈します。幻覚が生じたり見当識が失われて、周囲の状況への認知はほとんど不可能になっています。周囲から見ると了解不可能な言動を繰り返し、幻覚・妄想や状況の根本的な誤認から重大な犯罪に及ぶこともあります。刑事責任は原則的には無能力が認定されます。
ここで勘違いしてはいけないのは、刑事責任についてです。
「酔っていて覚えていないから責任能力は問われない」というわけではありません。
米国の全国司法統計の有罪者(14,000人余り)の約60%が犯行時にアルコールか薬物を使用し、約30%はアルコール単独の使用群であったという報告があります。
酩酊時の犯罪は一般に暴力や性犯罪につながりやすいことが知られています。
最近では、飲酒行動そのものは本人の自由意志に基づくものなので、その結果としての犯罪行為についても「原因においては自由な行為」という考えから、酩酊犯罪の責任能力に関して刑事政策的にかなり厳しい態度がとられる傾向にあります。
また、異常酩酊の基盤や誘引としては、遺伝的な素因・アルコール依存症・脳挫傷や脳梗塞などの脳器質性障害・極度の疲労や衰弱状態などが考えられています。
異常酩酊は繰り返すことが多く、事故や事件に繋がる危険性が高いため、断酒を始めることが必要とされます。
まとめ:なんかいろいろ書いてあるけど、結局どっちなの?
ビンジ飲酒であっても、異常酩酊であっても、その定義によって「アルコール依存症ではない」とは結論付けることはできません。
事実から言えることは、まとめると以下の通りです。
今回の事件を起こした本人は「異常酩酊」になっていた、それは「ビンジ飲酒」という飲むスピードと量の異常が直接的原因で引き起こされた。
そのような「異常酩酊」の背景(基盤・誘因)のひとつには、アルコール依存症が考えられるので、
「アルコール依存症」かどうかは、病院で医師の診断を受けなくては決定できないが、
「アルコール依存症の疑い」があると
医学的かつ客観的にスクリーニングと事件の状況からは、判断できる。
また、異常酩酊は繰り返すことが多いため、断酒を始めることが必要であると考えられる。
これに似た状況に、元サッカー選手の前園真聖さんのケースがあります。
厚生労働省の依存症啓発イベントにも参加している前園真聖さんはアルコール依存症ではないのでしょうか?
「アルコール依存症の疑い」ではあっても、専門病院で医師の診断がつかなければ、厳密にいえば「アルコール依存症」ではない、といえるのが、彼の状況だといえます。
■前園真聖さん 飲酒トラブル概要
2013年10月13日午前9時15分ごろ、自宅近くの路上で、タクシー運転手の男性の右頬を殴った後、右太ももを蹴った疑いで逮捕されたが、男性にケガはなく、その後釈放された。
また会見で報道陣から、過去の飲酒トラブルを聞かれると「昨年10月にも飲酒後、タクシー運転手とトラブルを起こしていた」と初めてではないことを明らかに。「(運転手の)物の言い方などに腹を立て、強い言葉を言った」と経緯を説明。このときはタクシーを手配した知人に運転手が苦情を入れ、前園氏本人が直接謝罪し解決した。
会見したこの日は、もともと香川県でサッカースクールがあり「酒で仕事を飛ばすとは…」と痛恨の面持ち。「言い訳できない。飲もうが飲むまいが、しっかりしなければいけない」と言った上で「断ちます。お酒は」と強い口調で宣言した。
以来、素晴らしいことに断酒をずっと継続しておられます。
専門病院による確定診断・通院・投薬などが行われていないという意味で、「アルコール依存症ではない」といえるでしょう。
しかし、本当に重要なのは、依存症か否か、なのでしょうか?
「アルコール依存症でないから、その人の人格の問題?」
「アルコール依存症だから、病気のせい?」
いやー、違いますよね。
「アルコール依存症であろうとなかろうと、犯した本人の罪は変わらない」
「アルコールで異常酩酊を繰り返す場合は、社会的責任を果たせないので断酒を始める必要がある」
この2つがまぎれもない事実です。
だから、AAAリーダーである彼はこれから被害者の方に対して犯した罪を償わなくてはいけないし、今後、自分のためにも断酒に取り組み始める必要があります。
病気や飲酒の有無は、犯罪の事実のとらえ方を変えるファクターにはなりえない。
病気でないからといって、彼を否定したり非難する権利は被害者以外には、誰にもない。
ただ犯した罪とその再発を防ぐためのメソッドとしての断酒があり、それができない場合の医学的アプローチとして「アルコール依存症」と分類したうえで診断・治療があるのです。
なんだか問題が混在している気がしたので、長くなりましたがまとめてみました。
とにかくまずは被害者の方の回復。
そして彼本人の回復を願ってやみません。
疲れたー。寝よ。
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