社会福祉法人は、1951年に制定された社会福祉事業法、現在の社会福祉法により創設された社会福祉事業を行いことを目的とする法人である。
なぜ、社会福祉法人は創られたのか?(創設に至った概観)
第2次世界大戦終戦の混乱期に要援護者への対応が急務となるなかで、社会福祉に関する事業を国や地域公共団体の「制度」が担う必要性と行政の資源不足・民間資源活用の必要性から、強い公的規制のもと助成を受けられる特別な民間の法人として社会福祉法人が創設された。
国や地方公共団体が社会福祉法人に委託する形(措置委託制度)をとり、公共性の高い社会福祉事業を行う非営利法人として発展してきた。
1990年代に始まった社会福祉基礎構造改革により、福祉サービスの利用の仕組みが行政による措置委託から利用者との契約に移行した。また、株式会社などの経営主体による福祉サービスの参入が進み、福祉サービスの供給体制が多様化した。このような状況から競合する他のサービスとの立ち位置を明確にするため、より公益性・非営利性を徹底し、国民に対する説明責任と地域社会貢献を果たす組織として再定義された。
これが社会福祉法人制度改革の概観である。
現代における社会福祉法人が抱える問題点
近年、社会福祉法人の抱えやすくなる諸問題がいくつか社会的に取り沙汰されている。理事長とその親族による法人の私物化、不適切会計により多額の内部留保を溜め込む利益重視体質の露見など、最大の特徴と存在意義である公益性・非営利性を損なう事案が一部の社会福祉法人で確認されている。財務諸表を公表している法人が半数に満たないという驚くべき不透明性が隠れ蓑となり、非常識な役員報酬を目当てに自治体OBの実質的な天下り先になっていたり既得権益化しているという悲しい現実もある。
社会福祉法人が存続するために必要なCSRの概念
特別養護老人ホームの業界に民間企業(株式会社)が参入意欲を示し待機しているなか、優遇措置を受け続け社会福祉法人が存続するとしたら、上記のような諸問題を解決し社会的信頼と存在意義を取り戻す必要がある。
社会福祉法人の財務諸表の原則HPでの公表が義務化されているものの、法令上の根拠がないとして、平成25年の規制改革会議への報告では財務諸表を公表している法人は約4割(4,876法人)であった。財務諸表の公表が無い場合に、法人の指定取り消しを行うべきではないだろうか。
厚遇を受け税金をつかっている以上、前述した説明責任を果たす意味でも、組織の性質が異なるとはいえ、東証一部上場企業と同等程度のクオリティーの財務管理と透明性の確保は一般市民が正確に状況を理解するうえで、必須であると考えることもできる。
財務管理の透明性の確保を徹底したうえで、活動内容・財務状況・地域貢献度を地域住民に定期的な評価制度を導入するとよいだろう。存在意義の有無に関して360度サーベイを実施し、一定の評価を得られない場合は優遇の停止するか組織を他事業者へ移譲して民営化が速やかに実行できるようにするのである。
このように外部評価にさらされる環境を提供すれば、社会福祉法人は変わらざるを得ない状況に迫られて、サービスとしての価値に応じて進化するか滅びるか、いずれにせよ変わることができる。
この改革により浮いた予算を活用して、参入意欲がありサービスの質と量を定期的に監査する条件つきで、株式会社・NPO法人による参入に補助金制度を活用して支援をより促すのも効果的であると考える。
設立のしやすさから、粗悪なサービスを提供するNPO法人が問題視されているが、あまり役に立ちにくくなってしまった社会福祉法人に流れている予算をサポートに回して安定経営ができるようにサポート体制を敷き、競合する法人が多数存在するようになれば、市場原理が働いてサービスが不十分なNPO法人は自然淘汰され、価格に見合った適切なサービスを提供でき従業員に適切な賃金を支払える組織による社会福祉事業だけが生き残る、という未来が実現できるのではないだろうか。
福祉は一般的な事業と比べて、資本主義経済原理とは対極の公益性重視の事業であり、経験の無い法人は参入しにくい状況だった。提供すべきサービスも明確かつ限定的で社会福祉法人の役割がはっきりしていたので存在意義は大きかったのだろう。
しかし現代において家族のあり方・ライフスタイル・価値観は多様化しており、個別のニーズに対応するには事業者とサービスを多様化してアンメットニーズに対応できる体制を整えるべきタイミングを迎えていると考えられる。
他の事業で売り上げた収益を社会福祉事業に投資して複数の事業を運営する経営主体による安定した事業提供体制を整えるほうが、安定したサービス提供を望めるのではないか、と考えてしまう。