なぜ、地域で自立した生活を送ることが重要なのか?
それは、誰もが障害や年齢などに関わらず、その人がその人らしく、尊厳を持って、もともと持っている強さや能力や可能性を生かして最後までその生を全うできる事が、地域福祉社会の理想の根幹だからである。
その理想像のひとつとして、住み慣れた地域で自治した生活を可能とする姿を実現するということは、ご本人だけでなくこの社会で生きるすべての人々の未来への希望につながるからである。
家族の在り方が変化している現代社会
歴史的に家族と地域の在り方は変化し続けている。
今までは2世帯・3世帯の同居が一般的であるがゆえに、家族内・地域内で子育てから介護までのケア・サポートをしていくことが当たり前に受け入れられていた。
祖父母の死を自宅で目の当たりにし、死を身近に受け入れることを幼少期から経験できた年代にとって、自宅で両親や祖父母の死を看取りるのは自然なことであり、家制度の良い側面であったといえる。
しかし、近代化するにつれて核家族化が進み、家族規模が縮小した。
平均寿命は伸び、その結果医療介護の経済的心理的負担は増えた。高度経済成長期を迎えて我々は経済的・技術的に豊かになったものの、近隣同士のつながりや家族同士のつながりは表面的になり希薄化していった。こうして、従来の家族や地域の支え合い機能は低下していった。
このような背景から、現代社会において、家族に代わり高齢者や認知症患者など社会的弱者を支える機能の補完的・代替的なサービスが必要とされている。そのような社会的要請を受け、地域における社会資源の開発・調整・活用が進められた。
豊かさを実感できる「ニーズ対応型福祉サービス」を、自治体をベースとして公共サービスの拡充が進められ、高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略に始まるゴールドプラン・新ゴールドプラン・ゴールドプラン21、エンゼルプランと社会福祉施設や在宅福祉サービスの基盤整備計画が中央政府のガイドラインに基づいて都道府県や市町村の地域政府をベースに整備されていった。今日に至っては行政と契約を結んだり、企業の社会貢献の理念によるエンタープライズの連携関係が進展している。
ソーシャルワーカーはいかにして関わるべきか?
私たちソーシャルワーカーの基本理念は、社会的弱者が自己決定を可能にする環境への働きかけを行うことである。
自己責任をクライエントの自己決定の前提条件だと考えず、自己決定の結果を体験しているクライエントを引き続きサポートするとともに、やり直しができる状況を作ることが、クライエントの自己決定を可能にするといえよう。クライエントの文化、風習、生活様式などを十分理解し、クライエントらしさやクライエントがもともと持っている強さや能力や可能性を尊重した支援を行うことで、その人らしい安心のある生活を送れるよう自立を支援する存在として、ソーシャルワークはさらなる実践展開が急速に求められている。
具体的に地域自立生活を支援するためには、異業種間多職種連携が欠かせないと考えられる。行政も民間も縦割りではなく、相互に密に連携を取り合い、クライエントのありたい姿への自己決定をするチャンスを逃さないよう支援するために、できることを手と手を取り合って実施することが不可欠であると感じる。
自治体の介入が成功した地域自立システムの2例
具体的に成功した自治体や方法も、そのようなコンビネーションによるところが大きい。
テキストにも紹介されている岩手県の「遠野市トータルケアシステム構築」は、まさに全国の保険福祉行政をリードしてきたすばらしい事例のひとつである。最もすばらしい特徴のひとつとして、「遠野健康福祉の里」の設置である。市の社会福祉と保健福祉を一体化し診療所や社会福祉協議会を同一に含めた複合型施設として、あるべき医療と介護の一体化を体現している。これにより、行政内の医療・保健・福祉の連携を強固にし、住民にも協力を仰いで異業種間多職種連携を実現した成果だと言える。
愛媛県西予市の循環バスの事例も大変すばらしいと先生方から伺っている。自治体が医療機関に通院するために行政で地域循環バスの運行を開始した。それにより、通院できない独居老人など地域で暮らす高齢者や障害者への医療介護福祉の推進に大きく寄与していると考えられる。医療機関も協力して、製薬企業も循環バス用の薬剤ラインナップの提案などを行い、より効率的な運用を微力ながらサポートしていると聞いている。
行政にも企業にもさまざまな制約や規律があり、簡単に調整できない問題が目の前に立ちはだかるであろうことは想像に難くない。しかし、より多くのクライエントの希望を選択する自由を守るために、我々ソーシャルワーカーが率先して手と手を取り合う橋渡しをするべきではないだろうか。