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【社会福祉士】地域福祉における住民参加の意義と課題

なぜ地域福祉に住民が参加しなくてはいけないのか?

地域福祉において住民参加が重要な理由は、地域福祉が住民の市民的な主体性を促進し、さらにその住民は地域福祉を促進するという相関関係にあり、機能を維持し持続的に発展するためには、お互いに無くてはならない存在だからである。

時代背景の変化に伴い常に新たなニーズが発生するなかで状況に対応していかなければならない場合、制度福祉の整備に先立って、地域に暮らしている住民と専門職の両方の自発的な行動が組み合わさってはじめて、先駆的・開発的にニーズ充足を具現化することが可能になるからである。

行政とともに個別化する社会福祉ニーズに対応すべき時代へ

社会福祉行政においても、個別化する各市町村のあり方に対応するべく、時代の流れは中央集権から地方分権に移行している。

具体的には、1990年の福祉関係八法の改正、2000年の社会福祉法改正である。

第107条において市町村が地域福祉計画を策定することが規定されている。市町村の社会福祉行政において各種の福祉計画を策定していくうえで住民との連携や協働が重要なテーマとなるし、福祉課題を抱えた個々の住民の支援過程においても住民参加型の福祉活動との連携・協働・ネットワーク化が課題になる。地域福祉が住民参加なくして成り立たない理由はここにもある。

行政側だけではなく、住民側としても収めている税金を必要なサービスに必要なだけ適切に運用してもらうために、必要なサービスを自発的に行政に対して提案する主体性を発揮する権利があることを忘れてはならない。

私たちソーシャルワーカーがクライエントの自己実現のために必要であるならば持ち合わせるべきアグレッシブさ、つまり地方政治家・地区社会福祉協議会に住民と協力して働きかけ困っている人のために今必要なサービスを実現する予算を勝ち取るという積極的介入にも、住民参加が不可欠である。

アーンスタインの「市民参加の梯子」理論

地域福祉における住民参加の議論では、アーンスタインの「市民参加の梯子」理論が引用される。

アーンスタインは住民参加には操り、治療(セラピー)、情報提供、相談、慰め、パートナーシップ(協働)、権力の委任、市民統治、の8段階があるとしている。

操り、治療の段階では参加とはいえず、情報提供、相談、慰めの段階は表面的な参加、パートナーシップから市民統治の段階を市民権力(または自治、参画)と定義している。

近年求められている住民参加の段階は、3番目の自治や参画のレベルであり、上野谷加代子氏が協働の3つのレベルのうち最も高い3つめの自治体の政策にコミットしていく「協働」の場を形成していくことの必要性を述べているし、武川正吾氏がいうように住民参加のフロンティアは常に拡大していることから、住民参加の意義は、現代の社会福祉の発展段階において大変大きく必要不可欠なものになっているといえる。

住民参加を促進する「つながり」

住民参加を促進させる方法は、さまざまである。

個人的に仕事柄参加していて有効だと感じたのは、地域のお年寄りを支えるグループホームを運営する医療法人・社会福祉法人が開催する年1回の地域住民参加型のイベント開催である。楽しい雰囲気を醸成することにより、家族連れからお年寄りまでさまざまな年代の地域住民が集合し、交流する場を提供することができる。この交流を通じて、グループホームを中心として地域のお年寄りに携わるスタッフと顔の見える関係ができ、相談しやすくなり、意見を交換しやすくなることで、参加の障壁を下げることができているのではないか、と考えられる。

特に脳血管性認知症や大腿骨近位部骨折により突如要介護状態になった場合、介護の当事者になったそのときに、サポートにつながる具体的なイメージが描けるかどうかは非常に重要である。課題としては、運営側に参加してくれる地域住民を増やすことである。

地域で生きている、お世話になって生きている、という感覚を主体的に持ち行動に移すことは、希薄化したこの現代社会の地域のつながりにおいて非常に実現が難しいことである。

今後この課題を解決する鍵になるのは、認知症カフェや障がい者家族会にみられるようなグループセラピーにおける精神的な繋がりの強さであると考える。地域福祉に見出しにくいここまでの強いつながりの背景には、「同じ苦しみを共有している」という共感の基盤となる仲間意識がある。「実は同じことで悩んでいたのか」という救済にも似た気づきと安らぎを得られる関係性の構築を実現することは、疾病に限らず地域福祉においても可能性がある。たとえば、地域住民なら自由に休憩でき、託児所と高齢者介護施設を兼ね備えているような共有施設・共有スペースを提案したい。

様々な世代が気軽に行き来できるため、子育ての悩みから介護の悩みまで今まで孤立化の原因だった「悩み」を逆に共通基盤にして他者を身近にしていく取り組みが有効ではないか、と考える。

【社会福祉士】相談援助展開の8つのステップ

相談援助の展開過程は、8過程である。

ニーズキャッチ、インテーク、アセスメント、プランニング、インターベンション、モニタリング、エヴァリュエーション、ターミネーション、である。

①ニーズキャッチ

ニーズキャッチは、アウトリーチ等により利用者の顕在・潜在ニーズ両方を発掘する行動である。

現代では生活問題が複雑化・多層化しており、SOSを出せない、窓口に行くことができない人が増えている。支援の入り口を創るためには、待ちの支援では予防的介入・早期介入が難しい。一見すると目に見えにくい問題を想像して、引きこもりや路上生活者や高齢者や若者に自ら出会いに行き声をかけることで、支援が届けることができない人たちに出会う努力をしなくてはならない。

②インテーク

インテークは、面接であり、相談援助の最初の手段として行われることである。

実務者によるとまずは「今日ご飯食べた?おなか空いてない?」と開始されることが多いという。留意点として、相談者はアウトリーチしたときには限界状態で、何日も食事を取っていなかったり寝ていなかったりして、正確に話ができない状況である点を念頭におくべきである。本人、家族、環境、地域、社会資源、社会参加などの状況を幅広く入手し、マッピング技法などを用いて情報を視覚化する。そのうえで解決すべきニーズや希望を明らかにし、その目的に応じた具体的な支援の目標を設定する方向に検討の方向性を向けていく。この場合特に注意するべきは、本人が主訴として訴えている問題や要望がニーズとは限らないという点である。本当に解決したい問題なのは何なのか?突き詰めて考え明らかにする必要がある。

③プランニング

プランニングは、支援計画立案である。短期・中期・長期の目標設定をし、目標ごとに具体的な支援内容と方法をブレークダウンして設定する。

期間や頻度を数値化し、クライエントと共有して設定する。あくまでもクライエントが自己実現を可能にするために自ら自発的に達成したい目標に対して、我々ソーシャルワーカーはエンパワメントの考え方で寄り添うのであり、クライエントが寄りかかって生きていくような状況を創ってはならない。また、クライエントに対してのリスペクトを忘れ、専門家としての自負に目を眩まされ手段を強硬的に推し進めてしまうような事もあってはならない。あくまで本人が人生をより良く生きるためのサポートであると肝に銘じるべきである。

④インターベンション

インターベンションは、実際の支援開始・介入をさす。

介入には、直接的介入と間接的介入とがあり、直接的介入はクライエントに、間接的介入は、クライエント以外の環境や社会資源への働きかけである。個人情報の取り扱いには十分に注意を払い、守秘義務を遵守する。それを前提として、さまざまな多職種・異業種のメンバーに働きかけ、柔軟に不屈の精神で問題の介入に取り組んでいく。1件1件の事例のみのミクロにとらわれず、マクロへのインターベンションも忘れてはならない。地方行政や地元政治家に地域福祉の問題解決の提案や訴えを行い社会の変革へのアウトリーチを断続的に行っていくなど、資源が無いなら創るといった抜本的な改革も視野に入れてソーシャルワーカーは声をあげていくべきだと考えられている。

⑤モニタリング

モニタリングは、支援経過の観察である。

プランニングで設定した目標と照らし合わせて現在の支援状況、満足度や充足度、新たな課題やニーズなどを再検討し、必要に応じて再アセスメント、つまりもう一度プランニングを修正加筆していく。

⑥エヴァリュエーション

エヴァリュエーションは、支援の事後評価である。支援目標に対して達成できたか、できなかったか、どの程度達成できたか、インターベンションが適切だったか、支援前と支援後ではクライエントと周辺環境とで何が変化したのか、振り返り評価する。

⑦ターミネーション

ターミネーションは、支援の終結と効果測定である。

つまりクライエントへの支援を終える、ということであり、クライエントが不安を抱かないように段階的に行う必要があること、再利用について受け入れ準備があることや、再度相談する場合に抵抗がないよう配慮して窓口情報を提供すること、の2点に特に留意すべきである。問題が解決された、あるいはもうクライエントが問題は残るものの水から対応できる、という状況がクライエントと援助者双方で共通認識が持てている場合、終結となる。

ソーシャルワーカーとしてひとつのケースが終結した場合、ケースを振り返り客観的に評価して、援助者としての支援の質の向上に継続的に取り組むことで、同室の問題を抱えたクライエントを支援をする場合によりベターな支援はなんだったのか、今までよりもさらに妥当性や適切さをもって支援活動できる基盤となる。また、客観的な効果判定はクライエントや社会忍耐する説明責任を果たす上で非常に重要である。

【社会福祉士】ソーシャルワークの歴史的な形成過程

ソーシャルワークの形成過程は、産業革命の諸問題に端を発する。

貧困が最も重大な問題のひとつとして認識され、社会調査が行われた結果、個人に問題があるのではなく、経済活動を優先する社会が貧困を生み出していることが明らかになった。このことから、ソーシャルワークの源流が生まれた。

COS(慈善組織協会)発足からの「基礎確立期」

COS(慈善組織協会)が発足する。組織化された慈善事業は、友人として対等な立場に立って積極的に接点を持つというアプローチを実践した。これはやがてケースワークの発展に寄与することとなる。

セツルメント運動も社会的弱者の立場を身を持って経験することで社会福祉の向上を図ろうとする事業の展開として発足した。

この活動の特徴は、子供たちや移民や労働の問題に、グループの力を使ってアプローチした点にあり、グループワークやレクリエーション療法に発展する源流となっている。YMCAやYWCA、ボーイスカウトやガールスカウトなどの青少年団体等の活動も、グループワーク・コミュニティーワークへと発展していった。

「基礎確立期」はケースワークの確立を特徴とする。COSの活動はアメリカに広がる。この時代にケースワークはCOSの友愛訪問から脱却し科学的かつ客観的な観点から支援を考える方法として体系化されていった。ソーシャルワークは慈善事業から専門職への進化に向かう。ミルフォード会議によって「専門化」「ひとつの専門職としてまとまり」をもつ活動に発展していく。また、ソーシャルワークほどではないが、この時代、グループワーク・コミュニティワークにも専門化の兆しが現れている。ソーシャルワーカーたちが集まる会議においても問題中心であった会議から技術中心の会議への変化が見られた。

グループワークが取り入れられ始めた「発展期」

第二次世界大戦でさまざまな形で分断され脆弱化した家庭基盤に求められ、ソーシャルワークはその要求にこたえるべく「発展期」を迎える。この時代に最も特徴となる発展は、グループワークの形成である。コイルやニューステッターらにより、グループワークが学問として教育されたり、全国ソーシャルワークグループ会議において議論されるようになり、地域社会のニーズに応える組織化された住民参加型インターグループワークの理論を確立するに至る。以前から地域における援助活動の展開が重要視されてきたが、特に第二次世界大戦後、コミュニティの自己決定やコミュニティ構成による具体的成果が求められる時代的背景の求めにより、専門職としての業務遂行能力や基盤となる理論が必要となった。

技術主義的在り方からの脱却=「展開期」

1950年代半ばから、ソーシャルワークは展開期を迎える。それは、失業や貧困だけでなく、さまざまな社会問題の出現とその解決が求められ、社会変革を必要とした時代背景が大きく起因している。パールマンにより、かつて対立関係にあった診断主義と機能主義の折衷を図った「問題解決アプローチ」が提唱された。生活上の困難は個人の病理などが原因ではなく、当たり前に生じる問題であり、問題の解決に取り組み続けることが人間が生きる過程であるという見方を示した。クライエント自身が、ワーカーとの関係のなかで自発的に機能を活用しながら問題解決に向けて進んでいく過程を形成する支援がケースワークであると定義した。この時代において、技術主義的なあり方に傾倒してしまっていたケースワークは、当時の社会的な問題に対応できなかったことから厳しい批判にさらされ、パールマンの論文である「ケースワークは死んだ」にもあるように、広範囲の社会計画や制度の変革が必要であるとして、「社会的要因」への視点を取り戻していく。クライエントの立場に立ち、制度や施策を含めた社会資源の開発や改善など大きな枠での改善を目指す活動を重要視し実践する活動へと方法論・技術として発展していくのである。

ソーシャルワークの統合化(人+状況+関係の在り方全体)

現代につながる最後の系譜として、ソーシャルワークの統合化とジェネラリストアプローチの成立に我々はたどりつく。この流れは、現代ソーシャルワークの特質を反映するものである。今までそれぞれに専門化・発展してきたソーシャルワーク・グループワーク・コミュニティワークの共通基盤を明らかにして、一体化して捉えようとする一連の流れが、ソーシャルワークの統一化である。1955年にNASWが結成されたのを契機として統合化への動きに一気に弾みがつき、コンビネーションアプローチ、マルチメソッドアプローチ、ジェネラリストアプローチを経て、ジェネラリスト・ソーシャルワークへ展開していく。ソーシャルワークは、人のみでなく、また状況のみでもなく、その関係のあり方全体に焦点を当てて、クライエントと環境との双方に働きかけて「関係のあり方」を変えるという相互作用への専門的介入であるという論点に至る。

【社会福祉士】地域自立生活の意義とその支援方法についての考察

なぜ、地域で自立した生活を送ることが重要なのか?

それは、誰もが障害や年齢などに関わらず、その人がその人らしく、尊厳を持って、もともと持っている強さや能力や可能性を生かして最後までその生を全うできる事が、地域福祉社会の理想の根幹だからである。

その理想像のひとつとして、住み慣れた地域で自治した生活を可能とする姿を実現するということは、ご本人だけでなくこの社会で生きるすべての人々の未来への希望につながるからである。

家族の在り方が変化している現代社会

歴史的に家族と地域の在り方は変化し続けている。

今までは2世帯・3世帯の同居が一般的であるがゆえに、家族内・地域内で子育てから介護までのケア・サポートをしていくことが当たり前に受け入れられていた。

祖父母の死を自宅で目の当たりにし、死を身近に受け入れることを幼少期から経験できた年代にとって、自宅で両親や祖父母の死を看取りるのは自然なことであり、家制度の良い側面であったといえる。

しかし、近代化するにつれて核家族化が進み、家族規模が縮小した。

平均寿命は伸び、その結果医療介護の経済的心理的負担は増えた。高度経済成長期を迎えて我々は経済的・技術的に豊かになったものの、近隣同士のつながりや家族同士のつながりは表面的になり希薄化していった。こうして、従来の家族や地域の支え合い機能は低下していった。

このような背景から、現代社会において、家族に代わり高齢者や認知症患者など社会的弱者を支える機能の補完的・代替的なサービスが必要とされている。そのような社会的要請を受け、地域における社会資源の開発・調整・活用が進められた。

豊かさを実感できる「ニーズ対応型福祉サービス」を、自治体をベースとして公共サービスの拡充が進められ、高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略に始まるゴールドプラン・新ゴールドプラン・ゴールドプラン21、エンゼルプランと社会福祉施設や在宅福祉サービスの基盤整備計画が中央政府のガイドラインに基づいて都道府県や市町村の地域政府をベースに整備されていった。今日に至っては行政と契約を結んだり、企業の社会貢献の理念によるエンタープライズの連携関係が進展している。

ソーシャルワーカーはいかにして関わるべきか?

私たちソーシャルワーカーの基本理念は、社会的弱者が自己決定を可能にする環境への働きかけを行うことである。

自己責任をクライエントの自己決定の前提条件だと考えず、自己決定の結果を体験しているクライエントを引き続きサポートするとともに、やり直しができる状況を作ることが、クライエントの自己決定を可能にするといえよう。クライエントの文化、風習、生活様式などを十分理解し、クライエントらしさやクライエントがもともと持っている強さや能力や可能性を尊重した支援を行うことで、その人らしい安心のある生活を送れるよう自立を支援する存在として、ソーシャルワークはさらなる実践展開が急速に求められている。

具体的に地域自立生活を支援するためには、異業種間多職種連携が欠かせないと考えられる。行政も民間も縦割りではなく、相互に密に連携を取り合い、クライエントのありたい姿への自己決定をするチャンスを逃さないよう支援するために、できることを手と手を取り合って実施することが不可欠であると感じる。

自治体の介入が成功した地域自立システムの2例

具体的に成功した自治体や方法も、そのようなコンビネーションによるところが大きい。

テキストにも紹介されている岩手県の「遠野市トータルケアシステム構築」は、まさに全国の保険福祉行政をリードしてきたすばらしい事例のひとつである。最もすばらしい特徴のひとつとして、「遠野健康福祉の里」の設置である。市の社会福祉と保健福祉を一体化し診療所や社会福祉協議会を同一に含めた複合型施設として、あるべき医療と介護の一体化を体現している。これにより、行政内の医療・保健・福祉の連携を強固にし、住民にも協力を仰いで異業種間多職種連携を実現した成果だと言える。

愛媛県西予市の循環バスの事例も大変すばらしいと先生方から伺っている。自治体が医療機関に通院するために行政で地域循環バスの運行を開始した。それにより、通院できない独居老人など地域で暮らす高齢者や障害者への医療介護福祉の推進に大きく寄与していると考えられる。医療機関も協力して、製薬企業も循環バス用の薬剤ラインナップの提案などを行い、より効率的な運用を微力ながらサポートしていると聞いている。

行政にも企業にもさまざまな制約や規律があり、簡単に調整できない問題が目の前に立ちはだかるであろうことは想像に難くない。しかし、より多くのクライエントの希望を選択する自由を守るために、我々ソーシャルワーカーが率先して手と手を取り合う橋渡しをするべきではないだろうか。

【社会福祉士】社会福祉における代表的な理論とその概要

ジョン・ロールズの「正義論」

ジョン・ロールズの説く「正義論」は、伝統的リベラリズムに基づいて社会の基本構造そのものの分析から、社会的・経済的不平等を特別扱いすることで人為的社会制度を成り立たせる考え方である。本来、才能や運や属性は人としての個性であり、有利性や不利性をはらんでいるかもしれないが、価値自体は多様な在り方をしていてしかるべきで、意味や解釈は人により異なることから、画一的な取り扱いは難しい。しかし、ロールズは「所得の制約条件化で、最も不遇な人の期待を最大限に高める」ことを目的とする分配原理を提案した。近年注目が集まっている「ベーシック・インカム」の構想はこのロールズの格差原理を基礎として展開されており、評価すべき考え方のひとつであるといえる。

しかしながら、「最も不遇な人々」の期待値を所得にフォーカスして最大化しようとするロールズの取り組みは、対象である「最も不遇な人々」を定義できないことにより、所得を人々の社会的満足度の近似的指標として定義するにとどまってしまった。

アマルティ・センの「潜在能力論」

アマルティ・センは、ロールズの正義論に対して、「理論先見的にではなく、当該社会を構成する人々自身の公共的推論に基づいて決定するべきである」と批判を加えていると考えられる。対するセンの理論は「潜在能力理論」であり、「本人たちが目指す選択機会を社会が妨げないためのアプローチ」が必要であると説いている。潜在能力を比較評価する社会的判断について、完備性を満たす必要は無い、とセンは強調し、社会政策とに必要十分であればよく、ロールズが目指したような社会的・経済的不平等そのものを人為的社会制度が解決する必要はないという考え方だと捉えることができる。潜在能力は、本人が選ぼうとすれば選ぶことのできる点の集合を表す。逆に言えば、潜在能力から外れた点は、たとえ本人が選びたくても選べない点であることを指している。人それぞれの潜在能力は異なり、多様な個性が存在するこの世界で、人それぞれが持つものは違っていて当然であると同時に、社会ができることは、選択機会の損失をさせないサポートくらいで、あくまで本人の自主性を尊重する姿勢をとるべきだと考えられる。それゆえに、センは「本人たちが価値を置く理由の在る生を生きられること」が「自由」であると定義している。

センの理論の特徴は二つある。

ひとつめは、本人が達成したい行いやありようの背後にある実質的な選択機会(潜在能力)を捉えること。つまり、福祉的自由の保障である。

ふたつめは、互いの理由や特殊性を配慮しあう社会的判断の形成プロセスを内政的に扱おうとすること。つまり、公共的推論と透明性を基に、常識や標準に囚われず異なる境遇や価値観を持つ社会構成員同士が普遍的に配慮する在り方である。

このように、センは、それぞれの潜在能力に基づいて、個人が価値ある生を選び取り、自己においても他者においてもその生の選択を尊重し合う、社会組織的な能力「ケイパビリティ」の概念の元に社会全体の福祉が設計されていくことにより、生活の質と平等が実現できると考えた。

社会的判断=本人の価値と他人の価値のバランス

具体的に、我々が手を取り合って実現するべきアプローチは、以下のように考えられるだろう。

個人の潜在能力を実現するための「資源」(=所得・資産・余暇・市場・天然資源・公共財・公共サービス・コミュニティ)と「資源の利用能力」(=生産・消費・感覚としての合理性や理性や共感や正義・習慣・コミュニケーション能力)についても公共的推論に基づいて考え行動を決定する。すなわち、社会的に「本人が価値をおく理由」を尊重する姿勢で資源と資源の活用方法について決定をサポートする場合、「理由」と「特殊性」に配慮したアプローチが必要である。

個人だけがよければ良いのではなく、他の人たちの「理由」と「特殊性」も自身のそれと同じように尊重され、配慮されるべき大切な社会的・福祉的自由であり、それを妨げることは社会構成員としてあってはならない。なぜなら、自己の福祉を実現するプロセス・その福祉を評価するプロセスにおいても、他者はなくてはならない存在であり、関与を外すことは不可能だからである。私たちは一人では生きていけないからこそ、社会を構成し、お互いのために資源を利用し、資源の利用能力を高める努力をしている。

お互いの「理由」と「特殊性」を配慮しあう社会的判断の形成プロセスまでも、私たち自身で積極的に配慮する社会を構築することで、それぞれが生きたい人生を生きられると、センは教えてくれたのである。

【社会福祉士】ソーシャルワーカーである社会福祉士の役割とは?

社会福祉士はソーシャルワーカーのひとり

ソーシャルワーカーである社会福祉士としての役割は、異業種多職種と協同し総合的・包括的な相談援助を実現する課題抽出技術とソリューションの提案技術を駆使し、複数の制度やサービスを組み合わせクライエントの権利の保障を具現化する活動が行えるという専門性を有した専門家として、人々やさまざまな構造に働きかけ社会変革・社会開発を促進するという大きな使命を長期的な視野では目指しつつ、実務的にはあくまでクライエントのニーズに沿って自立・自己決定・自己選択を推し進めることであると言える。

ソーシャルワーカーとは、社会福祉士だけではない。

社会福祉学を基盤に、ソーシャルワーク実践を行う専門職のことである。

国際的にはソーシャルワーク専門職のグローバル定義が、2014年7月に、国際ソーシャルワーカー連盟と国際ソーシャルワーク学校連盟の総会・合同会議において採択されている。「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと開放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性の尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。」と定義されている。

ソーシャルワーカーの代表が、社会福祉士・精神保険福祉士であり、相談員や相談支援専門員、児童指導員、サービス管理責任者なども、広くソーシャルワーカーと位置づけられ、分野、施設、機関によって呼び方は異なることもある。相談支援事業所・ホームヘルパー施設・訪問看護施設・障害者支援施設・社会福祉協議会・地域包括支援センター・地域サロンなどが、ソーシャルワーカーが所属する施設や分野や機関であるといえる。

ソーシャルワーカーに必要な「技術」

ソーシャルワーカーに専門性が求められる理由は、援助を必要とする個々のクライエントやその家族との信頼関係を築き、直面している状況や抱えている問題を適切に把握し、その状況や問題の改善、解決に向けて適切な援助活動を行うためには、どうしても専門的な知識や技術および価値や倫理等の、すなわち援助者としての専門性が必要になり、ソーシャルワーカーが対人援助の専門職である以上、その専門性を高める努力を怠ってはいけないのである。

ソーシャルワーク実践をしていく上で、「技術」とは、知識を基に信頼関係とネットワークを形成し、長期にわたり生活とコーディネート支援ができる対人援助スキルである。その専門的技術の養成には、社会福祉現場を想定した演習と、実際の社会福祉の現場における実習が求められ、そのように養成された「技術」でなければ、クライエントに適切な援助活動ができないのであって、ソーシャルワーカーの「技術」は、その存在意義の実現可能性を左右するという重大な意味を持っている。

しかし、ソーシャルワーカーは「技術」だけに頼り、「技術」のみに終始してはならない。どれだけ高い技術を持っていたとしても、尊重すべきはクライエント本人の意思であり、私たちはあくまでクライエントのエンパワメントと解放を価値として、総合的かつ包括的な相談援助により「支援する立場」なのだという己の位置づけについて常に留意すべきである。相談援助の場面等においては、相談をする側と相談をされる側との関係が固定的になり、時として依存的な関係になる危険性があるからである。

社会福祉学を基盤とした高等教育の知識を持っている専門家として、人権を尊重し社会正義に則り相互援助の心で多様性を尊重するというソーシャルワークの価値観・倫理観を実現する、という非常に良心的かつ積極的に集団的責任を果たす社会構成員として大きな存在意義を持ちながら、クライエントと同じように、自らが置かれた状況の中で社会、組織や家族のなかで役割を持ち、周りの者との相互作用のなかで、助け助けられの相互援助を促進していく「相談援助」の理念を、自ら体現する一個の小さな存在であるとも言える。

今こそ求められているのは、ソーシャルワーカー(社会福祉士)

現代社会において、家族や地域の支え合い機能が低下し、家族に代わり高齢者や認知症患者など社会的弱者を支える機能の補完的・代替的な存在が必要とされている。そのような社会的要請を受け、社会福祉士は、社会的弱者が自己決定を可能にする環境への働きかけを行うべきである。自己責任をクライエントの自己決定の前提条件だと考えず、自己決定の結果を体験しているクライエントを引き続きサポートするとともに、やり直しができる状況を作ることが、クライエントの自己決定を可能にするといえよう。

クライエントの文化、風習、生活様式などを十分理解し、クライエントらしさやクライエントがもともと持っている強さや能力や可能性を尊重した支援を行うことで、その人らしい安心のある生活を送れるよう自立を支援する存在として、ソーシャルワーカーは真価を発揮するのである。