私は製薬会社で働いているのだが、どうにもこれはもうやばいな…と思っている。
先日会議に出てストレスがたまったので、割といろいろぶっちゃけてみようと思う。
自社の医薬品をいかにたくさん売るか?しか考えていない
大義名分としては「患者さんを第一に」とか言っているけれど、結局は売れればいいのである。
そういう下心をもっている人が多い。だからこそ人を見るプロである医師にも見抜かれていて、あまり信用されていないのがMR(製薬会社の営業みたいなもの)という職業である。
海外ではMRといえば医薬品のプロとして重宝され医師と並ぶほど社会的地位も高いのだが、この日本においては「医者のご機嫌取りをする金魚の糞」みたいな感じである。そして結局そういう前時代的な在り方が良しとされ、医療スタッフのみなさんからは「弁当屋さん」などと侮蔑の意味を込めて呼ばれてきた仕事だ。
なぜ弁当屋?と思うかもしれないが、製薬会社は勉強会のときなどに医師や看護師さんたちにいい気持ちで説明を聞いてもらおうと、せっせと弁当を運んでくるからだ。むしろ先生方からすれば「弁当をタダで食べたいからしつこいMRのために勉強会をやらせてやっている」という感じだ。
MRとはそもそも、営業というよりは、医薬情報を扱う担当者である。
MRの仕事は医療機関を訪問することにより、自社の医療用医薬品を中心とした医薬情報(医薬品およびその関連情報)を医療関係者(医師、歯科医師、薬剤師、看護師など)に提供し、医薬品の適正な使用と普及を図ること、使用された医薬品の有効性情報(効き目や効果的な使い方)や安全性情報(副作用など)を医療の現場から収集して報告すること、そして医療現場から得られた情報を正しい形で医療関係者にフィードバック(伝達)することなどを主な業務としています。
医薬品を適切に使ってもらうために、使い方や有効性・安全性などを伝達する人で、医療現場で副作用が起こった場合はその対応方法をすばやく伝達し、会社に報告して医薬品のリスクについて情報収集することを主としている。
売ることが目的とはどこにも書いていない。
だから、そもそも、優秀なMRでありたいのならば、きちんとそうした医療機関のニーズに対応できさえすれば、自社の医薬品が売れる必要はないのである。ボーナスが下がり、昇進できないだけで。
しかし、会社はせっかく開発したんだから高い薬価でたくさん売りたいし、それを元手に開発を進めて新しい薬を生み出さないと生きていけない。なぜなら薬を創っても、特許が切れたらやっすいジェネリック医薬品にとってかわられるからだ。常にいい薬を生み出し続けなくては生きていけない。
だから、会社はできるだけ売れるようにマーケティング部門や製品教育部門を動かす。
マーケティング部門は、できるだけたくさんの患者さんに投与してもらえるような患者さん像をイメージして、そのような患者さんに投与すると効果があると信じてもらえるようなデータを収集する。
そのような自社に都合がいいデータをうまく紹介できるようにMRを洗脳するべく、製品教育部門が社内研修を頑張る。それはしばしば偏っていて少々強引である。
洗脳されて「自社製品はこういう患者さんに投与されるべきなんだ」と信じ込んだMRが会社に教えられたとおりに先生に伝えに行く。
医師は内心『ああ、こいつは会社に洗脳されているんだな…でも会社からこれを言ってこいって言われてんだろうな…可哀想だからちょっとだけ聞いてやるか』という憐みの気持ちで話を聞き、あまりにもしつこいので「わかった、使ってみるよ」とMRが上司に報告するために言ってほしいであろう言葉をしぶしぶ伝えて早く帰ってもらおうとする。
こんなのが製薬会社の実情である。
新卒で入社する会社を選んでいるなら、製薬会社はやめておいたほうがいいと思う。
社内会議は売り上げで横並びに営業所やMRごとに比較される。なぜうまくいっていないのかをプレゼンさせられたり、うまくいっているように見えるMRが自慢げに、自分がいかに優秀かを、社内にアピールする。他人のオナニーを見せられるのは苦痛以外の何物でもない。
社内教育の時間も、無駄で長い。重箱の隅を楊枝でほじくるような質問を上から目線で製品教育部門の社員からされて嫌な気持ちになる。みんなの前で当てられて、答えられなければ「こんなこともわからないなんて」と高圧的な態度でさらし者にしてバカにしてくる。そういうプライドがエッフェル塔のように高い人たちがひしめいてマウントを取り合っている業界なのだ。
たまに「いやー…もうこれ可能性のレベルで絶対先生に話しても鼻で笑われるだけだよ」っていうデータを紹介してこいということがある。「なぜこのエビデンスレベルの低いデータをもとに処方提案をしなくてはならないのかわからない」と疑問を訴えても、「全社でそういう方針だから…」という謎の答えが返ってくる。だからなんなのだろう?答えになっていない。全く意味が分からない。
MR不要論はこのような製薬会社の傲慢さに起因する
そもそも、製薬会社が「よりたくさん売りたい」という欲を出すからこういうことになっているのだと思う。
私は正直、会社が提示する製品の価値やその裏付けのデータをあまり信じていない。それよりも、先生方の実臨床での経験や否定的な話をしっかり聞くようにしている。
学問的なエビデンスレベルのピラミッドはこのようになっていて、最強のデータはメタアナリシスやネットワークメタ解析だ。
その下に前向きのランダム化比較実験・二重盲検比較試験・コホート研究などがある。
学ぶべきは、この順番にどのような科学的根拠があるのか?そのなかで自社の医薬品はどのような位置づけなのか?という事実である。
ガイドラインや標準治療は常に新しいエビデンスにより改訂されていくので、今あるガイドラインが全てではないことは重々考慮すべきことだが、今推奨されている治療と照らし合わせて、自社の新薬を使った治療がどのような期待でどういう患者さんに投与されるかは、先生が決めることだ。
製薬会社が欲張ってたくさんの患者さんに投与されるようにコントロールするものではない。
創ったものをどう活かすかを相談しながら、安全性について教えていただきつつ慎重に一緒に治療のカスタマイズを進めていくべきであって、そのパートナーになるためにはフラットで実直で科学的な態度で臨まなくては信頼されない。
まさにこの、医師の製薬会社に対する不信。不振を招く不誠実な企業姿勢が、MR不要論を招いているように思う。
どの製薬会社も誠実に自社のデータやエビデンスを欲に目を眩まされずに紹介していて、伝えるべきリスクを的確に伝え、有効性・安全性の実臨床情報の収集を主とした活動をMRにお願いしていれば、話を聞いてもらうために弁当を用意する必要もないし、何百万もかけて講演会を企画する必要もない。
そもそも、私が患者なら「MRが頑張っているから」等という理由で処方薬を変える医師なんて主治医に選びたくない。
EBM(Evidence-Based Medicine)=科学的根拠に基づいた治療を真摯に実行している医師に診てほしいし、薬剤選択してほしい。どっかの製薬MRと癒着していて製品を贔屓にするような医師が選ぶ薬は飲みたくない。
だから結局マーケティング部門や製品教育部門がいくら社内を頑張って洗脳しようとも、それは社会的に見れば全く善い行いではないということだ。
良い部分はもちろん知らなくてはならない。いい薬なのに世の中で生かされないのは社会的損失だからだ。しかし、他社の薬のほうが優れている面があるのにそれを見て見ない振りをしたり、まるで遜色ないかのように印象操作しようとするのは間違っている。
そういうことをしない体で会社や社内では議論が行われているが、実態としては今も昔も変わっていない。その証拠に、まだ売上計画達成率でMRを評価している。MRの本分を求めるならば、副作用収集業務のコンスタントな実施報告や市販直後調査の伝達遂行率などが評価されているはずだ。そういう評価は全くない。副作用報告をしたことがないMRが昇進してマネージャーになるくらいだ。もはや終わっている。
まとめ:私はとにかく誠実に活動したいだけ
先生方を信頼し、コントロールを手放そうよ、と思う。
医師というのは、あんなにつまらない勉強を机にかじりついてやってまで、人の命に関わろうという高尚な精神の持ち主なのだから、きっとデータを見ればちゃんと理解してくれる。
そりゃあいろんな医者がいる。お金持ちになりたかったから。親が医者だからなりたくなかったけどなった。そんな先生もいて当たり前だろう。
だけど、もともと頭の回転が速いひとたちだ。プライドは多少高いかもしれないし、生育歴的にAC気質で共依存しやすい人もいるけど、誠実に真摯に話せば基本的にはちゃんとわかってくれる人たちである。患者さんの話を熱心に一日中聞いているだけあると思う。
だから、「こういう薬なんですけど、どういう人に効果を期待できそうですか?」「懸念に思われている点はどのような特性ですか?」というふうに、常に学ばせていただく姿勢で、先生の実臨床経験をもとに少しずつ無理のない範囲で役立ててもらうのが最も世の中にとって望ましいやり方だと思う。
だって私たちは患者さんに直接話ができるわけではないのだ。
患者さんと向き合っているのは先生なんだから。
その先生の経験を尊重しないで、何を尊重するというのか。
先生に「こう刷り込んでやろう」「こういう印象を持たせよう」などとコントロール欲求丸出しで接するから、信頼されないし要らないと言われるのだ。
おこがましい。こざかしいよ。
薬剤師と医師どちらが上とか下とかとかそんな小さい話をしているんではなくて、そもそも治療のサポートなんだよね、私たち製薬会社は。
治療って薬物治療だけではないし、むしろ薬物治療ってサポートで、本人が努力するものだ。本人が、治すものだ、病気というものは。治してやろうと思っている医師がいたとしたらそれは少し傲慢な考えだと思う。
みんな傲慢すぎるのです。
私は誠実に、ただ実直に、世の中に最もよいと私が思うことがしたい。