【社会福祉士】地域福祉における住民参加の意義と課題

なぜ地域福祉に住民が参加しなくてはいけないのか?

地域福祉において住民参加が重要な理由は、地域福祉が住民の市民的な主体性を促進し、さらにその住民は地域福祉を促進するという相関関係にあり、機能を維持し持続的に発展するためには、お互いに無くてはならない存在だからである。

時代背景の変化に伴い常に新たなニーズが発生するなかで状況に対応していかなければならない場合、制度福祉の整備に先立って、地域に暮らしている住民と専門職の両方の自発的な行動が組み合わさってはじめて、先駆的・開発的にニーズ充足を具現化することが可能になるからである。

行政とともに個別化する社会福祉ニーズに対応すべき時代へ

社会福祉行政においても、個別化する各市町村のあり方に対応するべく、時代の流れは中央集権から地方分権に移行している。

具体的には、1990年の福祉関係八法の改正、2000年の社会福祉法改正である。

第107条において市町村が地域福祉計画を策定することが規定されている。市町村の社会福祉行政において各種の福祉計画を策定していくうえで住民との連携や協働が重要なテーマとなるし、福祉課題を抱えた個々の住民の支援過程においても住民参加型の福祉活動との連携・協働・ネットワーク化が課題になる。地域福祉が住民参加なくして成り立たない理由はここにもある。

行政側だけではなく、住民側としても収めている税金を必要なサービスに必要なだけ適切に運用してもらうために、必要なサービスを自発的に行政に対して提案する主体性を発揮する権利があることを忘れてはならない。

私たちソーシャルワーカーがクライエントの自己実現のために必要であるならば持ち合わせるべきアグレッシブさ、つまり地方政治家・地区社会福祉協議会に住民と協力して働きかけ困っている人のために今必要なサービスを実現する予算を勝ち取るという積極的介入にも、住民参加が不可欠である。

アーンスタインの「市民参加の梯子」理論

地域福祉における住民参加の議論では、アーンスタインの「市民参加の梯子」理論が引用される。

アーンスタインは住民参加には操り、治療(セラピー)、情報提供、相談、慰め、パートナーシップ(協働)、権力の委任、市民統治、の8段階があるとしている。

操り、治療の段階では参加とはいえず、情報提供、相談、慰めの段階は表面的な参加、パートナーシップから市民統治の段階を市民権力(または自治、参画)と定義している。

近年求められている住民参加の段階は、3番目の自治や参画のレベルであり、上野谷加代子氏が協働の3つのレベルのうち最も高い3つめの自治体の政策にコミットしていく「協働」の場を形成していくことの必要性を述べているし、武川正吾氏がいうように住民参加のフロンティアは常に拡大していることから、住民参加の意義は、現代の社会福祉の発展段階において大変大きく必要不可欠なものになっているといえる。

住民参加を促進する「つながり」

住民参加を促進させる方法は、さまざまである。

個人的に仕事柄参加していて有効だと感じたのは、地域のお年寄りを支えるグループホームを運営する医療法人・社会福祉法人が開催する年1回の地域住民参加型のイベント開催である。楽しい雰囲気を醸成することにより、家族連れからお年寄りまでさまざまな年代の地域住民が集合し、交流する場を提供することができる。この交流を通じて、グループホームを中心として地域のお年寄りに携わるスタッフと顔の見える関係ができ、相談しやすくなり、意見を交換しやすくなることで、参加の障壁を下げることができているのではないか、と考えられる。

特に脳血管性認知症や大腿骨近位部骨折により突如要介護状態になった場合、介護の当事者になったそのときに、サポートにつながる具体的なイメージが描けるかどうかは非常に重要である。課題としては、運営側に参加してくれる地域住民を増やすことである。

地域で生きている、お世話になって生きている、という感覚を主体的に持ち行動に移すことは、希薄化したこの現代社会の地域のつながりにおいて非常に実現が難しいことである。

今後この課題を解決する鍵になるのは、認知症カフェや障がい者家族会にみられるようなグループセラピーにおける精神的な繋がりの強さであると考える。地域福祉に見出しにくいここまでの強いつながりの背景には、「同じ苦しみを共有している」という共感の基盤となる仲間意識がある。「実は同じことで悩んでいたのか」という救済にも似た気づきと安らぎを得られる関係性の構築を実現することは、疾病に限らず地域福祉においても可能性がある。たとえば、地域住民なら自由に休憩でき、託児所と高齢者介護施設を兼ね備えているような共有施設・共有スペースを提案したい。

様々な世代が気軽に行き来できるため、子育ての悩みから介護の悩みまで今まで孤立化の原因だった「悩み」を逆に共通基盤にして他者を身近にしていく取り組みが有効ではないか、と考える。

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